▼雑学・山の伝承ばなし
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【とよだ時】(豊田時男)
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▼南ア甲斐駒ヶ岳・山頂の祠
【本文】
南アルプスの山梨県と長野県境に
そびえる甲斐駒ヶ岳は、
全国各地に数ある駒ヶ岳のなかでも
最高峰です。
ドッシリ構えた雄姿は
見事だと評判です。
山頂には立派な祠があります。
祠は駒ケ岳神社の奥宮で、
前宮は山梨県北杜市白州町横手と
白州地区の竹宇の2ヶ所にあり、
黒戸尾根から甲斐駒ヶ岳への
登山口になっています。
まつってある神は
大国主命(おおくにぬしのみこと)
の名でおなじみ
大己貴命(おおなむちのみこと)と、
少彦名命(すくなひこなのみこと)と
いう神さま。
突然ですが、
日本神話の『古事記』の神代記などに
出てくる「出雲の国譲り」の時、
高天原から派遣された
建御雷神(たけみかづちのかみ)は、
十拳剣(とつかのつるぎ)を
波頭にさかさまに立て、
その剣先にどっかとあぐらをかいて
「この国をわれらに渡せッ!」と
大己貴命に国譲りを迫ります。
しかし大己貴命の子、
建御名方神(たけみなかたのかみ)は
国譲りには反対です。
そこで、建御名方神は
「力比べで勝負してきめよう」と、
怪力の建御雷神に挑みましたが、
建御名方神は、とうとう破れてしまい
ました。
神さまの名前が似通っていて
混乱しそうで、スミマセン。
そして長野県の諏訪湖まで
逃げて来て
諏訪大社の祭神になります。
その時、甲斐駒ケ岳の崇高さにうたれ、
父親神(大己貴命・大国主命)を
その山頂に祀ったのが
奥宮のはじまりだと、
駒ケ岳神社の社伝にあります。
少彦名命があるのは、
大・小(少)の対比から
大己貴命とコンビとして
よくまつられているケースです。
ほかに雄略朝というから大和時代、
出雲国の宇迦山から
神の座を移したとする
書物もあります。
この山も修験道の山。
ここは文化13年というから
1816年、延命行者(弘幡行者)が
道を拓き、頂上を極めたといいます。
それにより、修験道信仰の
威力大権現もまつられています。
駒ヶ岳神社も古くは
駒形権現と神仏習合の名で
よばれたそうです。
1814年(文化11)に編纂の
『甲斐国志』(第2巻)に
「山頂巌窟ノ中ニ駒形権現ヲ
安置セル所アリ」
との記述もあり、
行場が各所に残っています。
1879年(明治12)、地元発行の
木版の「甲斐駒ヶ岳之略図」は、
甲斐駒ヶ岳の山頂に大己貴命、
摩利支天に手力男命、
黒戸山に猿田彦命が鎮座すると
あります(『角川日本地名大辞典』)。
こんな由緒のある祠も、
まわりに大勢の登山者が集まって
休憩していて、
観察するのが難儀です。
名山と呼ば
れるところは仕方ないですね。
▼甲斐駒ヶ岳【データ】
【所在地】
・山梨県北杜市(旧北巨摩郡白州町)と長野県伊那市(旧
上伊那郡長谷村)との境。中央線日野春駅の西14キロ。
JR中央本線甲府駅からバス、広河原乗り換え北沢峠、
歩いて4時間20分で甲斐駒ヶ岳。
・一等三角点(2965.6m)と、写真測量による標高点(2
967m)と、甲斐駒ヶ岳神社の本宮がある(この神社は
山頂に本宮があり、里宮は前宮になっている)。
【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第77番選定):日本二
百名山、日本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第48
番選定)
・山梨県選定「山梨百名山」(第29番選定)
・清水栄一選定「信州百名山」(第92番選定)
・田中澄江選定(1995年)「新・花の百名山」(第75
番
選定)
【位置】
・三角点:北緯35度45分28.51秒、東経138度14分12.5秒
【地図】
・2万5千分の1地形図:「甲斐駒ヶ岳(甲府)」
▼【参考文献】
・『甲斐伝説集』(甲斐民俗叢書2)土橋里木著(山梨
民俗の会)1953年(昭和28)
・『角川日本地名大辞典19・山梨県』磯貝正義ほか編(角
川書店)1984年(昭和59)
・『角川日本地名大辞典20・長野県の地名』市川健夫ほ
か編(角川書店)1990年(平成2)
・『古事記』:新潮日本古典集成・27『古事記』校注・
西宮一民(新潮社版)2005年(平成17)
・『信州山岳百科・2』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭
和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005
年(平成17)
・『日本山岳風土記2・中央・南アルプス』(宝文館)1960
年(昭和35)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平
成16)
・『日本歴史地名大系19・山梨』(平凡社)1995年(平
成7)
・『日本歴史地名大系20・長野』(平凡社)1990年(平
成2)
・『名山の文化史』高橋千劔破(河出書房新社)2007年
(平成19)
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