▼山の軽口ばなし
本文のページ(07)
【とよだ時】(豊田時男
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山形県鳥海山・鶴間池と小百合姫

山形県鳥海山・鶴間池と小百合姫

【本文】
 東北の名山して、知られる鳥海
山の南面に、鶴間池という神秘的
な池があります。奥州平泉藤原氏
は、平安時代中期奥州を治めてい
た安倍貞任(あべのさだとう)の
血を受け継ぐ氏。その三代目藤原
秀衡(ひでひら)が、源義経をか
くまい、四代泰衡(やすひら)の
時、鎌倉の頼朝に滅ぼされてしま
いました(秀衡1187・文治3年没
(鎌倉時代初期)、義経文治5年没
になっています)。

 その藤原秀衡の妹で武将の岩城則
道に嫁いだ万徳御前がいました。万
徳御前は、藤原氏の再興を期して挙
兵しますが、味方の裏切りにあって
敗れてしまいました。嘆き悲しんだ
万徳御前は、鳥海山に登りました。
そして、鶴間池のほとりに、「女別
当の宮」をしつらえて、池の主の
竜王のお使わしめ(お使い)にな
ってしまいました。

 時代は移って室町時代、万徳御
前の末裔(えい)で、由利十二党
の旗頭矢島満安(みつやす)の娘
に、小百合(さゆり)姫という美
しいお姫さまがいたそうです。姫
の父矢島満安は、かつて同族の滝
沢城主の讒訴(ざんそ)が原因で、
仁賀保城主の兵庫に城を攻められ、
自刃(じじん)させらた経緯があ
ります。小百合姫がまだ5歳の時
だったそうです。


 小百合姫は、山形の大名の一門
最上内膳に養育されました。成長
した姫は、ますます艶やかになり、
16歳の時、大名に召されて、館の
奥勤めになったということです。
小百合姫は、若者の間でも、評判
でした。そんななか、姫のもとに
一枚の色紙が届きました。それに
は「夏草の、茂きがなかに、ひと
もとの、姫百合の香りぞ、ゆかし
かりける」(あげ羽の蝶)とあった
そうです。そんなこんなで、「小百
合姫」と「あげ羽の蝶」の二人は、
(資料の原文のママにいいますと)
「吹く春風も和(なご)やかに、
露も情と結ばれる仲」になったの
だそうです。

 それから間もなく姫は、自分の
身の上を知らされ、父祖(ふそ・
祖先)の無念を晴らすさんと、決
心することになります。小百合姫
は、鶴間池の宮にこもって、33人
の行者と、33人の巫女を相手に武
芸や、手裏剣の術を一心不乱に修
行しました。しかし、その時には
すでに、「あげ羽の蝶」との間のこ
どもを懐妊していたのです。ああ
……。この大事なときに身重にな
っていたとは。

 しかし、泣いても悔いても詮な
いことと悟った姫は、鶴間池の竜
神の御宝前に、身を投げかけて、「こ
の本望、遂げべくんば、鶴間池に
咲く山百合の花を、黒染めの色に
染め給え」と祈りました。翌年、
姫が玉のような男の児を出産しま
した。同時になんと、鶴間池のま
わりに生えた百合が、みんな黒ユ
リになって咲きはじめていたので
す。「さては本願成就、疑いなし」
とばかり、巫女や行者ともどもに
勇みに勇んで、滝沢城を落とし、
さらに宿敵の仁賀保の城にせまっ
て、二の丸の軍勢を討ち取りまし
た。


 すると、本丸から二人の老臣が
あらわれました。「しばし待たれよ。
当主は先月病死。嫡男(ちゃくな
ん)は家督(かとく)を継ぐひま
もない。降伏して城を明け渡した
い」というのです。間もなく、し
おしおと当家の嫡男あらわれまし
た。嫡男は、小百合姫の前に両手
をついています。それを見て「あ
っ。この嫡男こそ、あのあげ羽の
蝶の君ではないか」。何ということ、
自分はこんな男に身を任せたのか
……。

 それからというもの、小百合姫
は、山里に庵をくみ、法華経の読
経にあけくれて、一生を終えたと
いうことです。人々は、小百合姫
を「黒百合姫」と呼び、鶴間池に
は、いまも黒い花のユリが咲いて
いるということです。しかし、実
際にはクロユリは、このあたりに
はなく、月山以外には見あたらな
いといいます。もちろん、鳥海山
にクロユリはないそうです。まし
て、鶴間池は標高1000mという低
い標高です。あるはずのない鶴間
池にどうしてこのような伝説があ
るのか不思議なことなのだそうで
す。


▼鶴間池【データ】
★【所在地】
・山形県酒田市旧八幡町地区(旧
山形県飽海郡八幡町)。JR秋田新
幹線酒田駅からバスで観音寺からバ
スで湯ノ台、2時間40分で鶴間池。
地形図に池名(鶴間池)と南湖畔に
写真測量による標高点(815m)の
標高のみ記載。

★【地図】
・2万5千分の1地形図「湯ノ台」

▼【参考文献】
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナ
カニシヤ出版)2005年(平成17)
・『続・植物と神話』近藤米吉編著(雪
華社)1976年(昭和51)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三
省堂)2004年(平成4)



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