『日本百名山の伝説・神話』
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【とよだ時】(豊田時男
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▼青森県・八甲田「八つの神田」

【説明略文】
【短略説明】
「雪中行軍」の悲劇で有名になった八甲田山。
山名は8つの峰と、低地に発達する高層湿原、
池塘を田とみなして「神の田」、「耕田」、「高
田」から八甲田、甲(かぶと)などの説もあ
ります。東岳と八甲田山が山争いで八甲田は
東岳の首をはねました。首は西に飛んで行き、
岩木山の肩のコブになった。それで東岳の山
頂が平らだという伝説もあります。
・青森県。

【説明本文】

 青森県の八甲田山といえば、明治35年(1
902)の凍死者197名、「雪中行軍」の
悲劇が有名です。この事件を主題として、作
家・新田次郎が『八甲田山死の彷徨』を書き
ました。1977年(昭和52)にはこれが映
画化されます。そのテレビコマーシャルの「天
は我らを見放した」は流行語にもなりました。

 以前の観光案内書には八甲田山は、八つの
甲(かぶと)のような峰と湿原地帯に小さな
田んぼのような無数の池があることからの総
称と説明されています。このようにいろいろ
な説があるようですが、8つの峰と、低地に
発達する高層湿原、池塘を田とみなして「神
の田」、「耕田」、「高田」から八甲田になった
という。また「八」は、萢(やち・谷地)で、
湿原をさす言葉だとするものもあります。

 なかには、「八」の峰を具体的に挙げ、「山
踉(さんろう)豊大にして(中略)山峰八に
別る。前岳高倉岳こほれ岳井戸岳釜伏山小川
の大嶽砂岳と云(中略)甲田又高田に作る。
八耕田とは八峰あるよりの名なる」(明治初
年の『新撰陸奥国誌』)と記す文書もありま
す。しかし、一峰足らないようですが、ま、
それはそれでまいりましょう。


 この山は金山伝説もあるようです。江戸時
代後期の旅行家で文人、生涯の大半を東北地
方の旅に過ごし、八甲田山にも登った菅江真
澄(すがえますみ)という人がいます。真澄
は、青森市から八甲田山を仰ぎ見て、ふと『万
葉集』に出てくる「黄金花咲く小田なる山」
はこの山ではないかと思いました。

 「黄金花咲く小田なる山」とは、『万葉集』
第18巻 4094番歌にある、陸奥国に金を出
す詔書を賀す歌一首、并(あわせ)せて短歌
(大伴家持)「鶏が鳴く 東の国の 陸奥の
 小田なる山に 黄金ありと 申したまへ
れ」という歌。これは、聖武天皇の天平21年
(749)、陸奥国からはじめて黄金が献上され
た時の歌だそうです。

 しかし、八甲田山から金が採れたという史
実は確認できないため、この歌は宮城県の金
花山(金華山)とするのが一般的でした。だ
がだが、しかし、金花(華)山は島であり、
小田山であるはずはありません。


 また、江戸後期1786年(天明6)の『津軽
俗説選』(工藤白竜(工藤常政)著)にも、「八
耕田(甲岳)むかしは金山なり。今も金を分
けし道具、麓の村里に所持せしものありとい
へり」とあるのです。

 真澄は、実際に八甲田山に登ってみました。
その時のことを、随筆「筆のまにまに」には
次のように書いています。「渓水を渡れば氷
のごとくみな月寒し(6月なのに寒い)。山
沢の水の中に金研臼(カネスリウス)といふ
もの、大石小石にて作りたるがいくつとなく
まろびあひ埋もれたり。…

 …これを見てもそのいにしへ黄金(くがね)
掘りし山はうたがふべくもあらじ(疑いな
い)。耕田(クワウタ)は小田(コウタ)の
訛にて小田なる山にこそあらめ。……(小田
(おだ)は小田(こうた)で耕田のことであ
り、こここそ、みちのくの黄金花咲く山に違
いない)」と書いています。


 しかし、この話はやはり間違いらしく、調
べるうちに真澄も次第に自身がなくなり晩年
になりはっきり、誤りだったと悟りました。
そこで最後に「すみかの山」を改訂し、その
部分を書きかえたのでした。……残念無念。

 八甲田山にはこんな伝説もあります。青森
市街から見ると、東方向に東岳(あずまだけ
・標高684m)が、南東方向に八甲田山が、
また南西方向に岩木山が眺められます。見る
と東岳の頂上が平らで兜状になっています。

 そんなことから昔、東岳と八甲田山が山争
いをしたという伝説が生まれました。八甲田
は東岳の首をはねました。東岳の首は西の方
向に飛んで行き、岩木山の肩にめりこみ、コ
ブになってしまいました。それで東岳の山頂
が平らなのだそうです。

 また、八甲田山と岩木山が喧嘩をしました。
そのとばっちりを受けた東岳は、首を飛ばさ
れて雲谷峠になったという伝説もあります。
(この伝説については岩木山の項にありま
す)。


 八甲田山にも雪形が出ます。『東遊記』と
いう本に「この峰に種蒔老翁、蟹このはさみ、
牛の頭、などという春の残雪が見える。雪も
やや消えてゆき、苗代を蒔くころになると、
山にたねまきおっこ、といって残雪が人の立
っている姿に見え、そしてかにこのはさみに
見えるころ田をかきならし、うしのくびに見
えるころ、早苗をとって植える」と書いてい
ます。

 ここもチングルマ、ハクサンシャクナゲ、
ミネザクラ、チシマザクラ、マルバシモツケ、
ゴゼンタチバナ、ウサギギク、ミヤマオダマ
キ、シナノキンバイなどの高山植物が登山者
を楽しませてくれます。

 また、北八甲田連峰には高層湿原ならでは
の貴重なトンボもが多く生息しています。顔
が白いカオジロトンボ、るり色で美しいルリ
イトトンボほか、オオルリボシヤンマなども
見られます。


▼八甲田山(八甲田大岳)【データ】
【所在地】
・青森県青森市。東北本線青森駅の南東22キ
ロ。JR東北本線青森駅から市営バス、1時
間15分で八甲田ロープウエイ駅。ロープウエ
イ山頂公園駅から2時間半で大岳。一等三角
点(1584.50m)とがある。

【地図】
・2万5千分1地形図名:八甲田山

▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典2・青森県』竹内理
三ほか編(角川書店)1991年(平成3)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ
出版)2005年(平成17)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書
房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳。久球雄ほか(三省堂)
2004年(平成16)
・『日本歴史地名大系2・青森県の地名』虎
尾俊哉ほか(平凡社)1982年(昭和57)
・『名山の日本史」高橋千劔破(ちはや)(河
出書房新社)2004年(平成16)


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