「いなかの神さま仏さま」あとがき

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 日本には八百万の神々がおわすといわれます。山には山の神、
野には野神、峠には峠神、道の神、木の神、草の神、動物、植物、
水、風などの神、天狗、仙人、鬼、妖怪たちもひしめき合ってお
ります。かつては山から吹き下ろす風に畏怖し、山中で起こる不
思議な物音に魔を意識し、不可解な出来事をおそれる、それほど
自然現象に敏感だった人々は神の存在を普通に感じていたのかも
知れません。

 現代では夜の闇も恐れなくなり、自然の畏怖を感じなくなりま
したが、それでも深山でビバークして一人テントで夜を過ごして
いると、不思議な物音や沢の流れ、風の吹き方、木々が擦れ合う
音など、たしかに神を感じる時があるのも確かです。

 山や峠にはよく祠や石仏が建っています。これらには「古事記」
にあるような古代の出来事に関係していたり、源平合戦や南北朝
の争いなどの伝説がからんでいて、「和名抄」や「日本霊異記」、
「和漢三才図会」のような古書に記載されていたりします。祠や
石仏はまた、もともとその土地の地主神や大明神のものであった
り、仙人や天狗社、鬼・邪神を封じ込めた祠であったりします。
時々話題になるオオカミやツチノコも実は神であることも分かり
ました。神々はみな、伝説の主人公にもなっています。

 多くの伝説の中でもとくに天狗話に興味ある話題があります。
「太平記」(巻二十五)に「宮方の怨霊六本杉に会する事」に京
都の仁和寺六本杉の梢で天狗評定が行われたと載っています。そ
れには天狗になった大塔宮護良親王以下、峰僧正、智教上人、忠
円僧正と、そうそうたるメンバーたちが集まり、悪政で天下を腐
らせている足利一族に思い知らせてやろうと相談、「観応の擾乱」
のきっかけをつくったという。

 各地の名山霊山には名前のある「大天狗」がいて、大勢の小天狗
を取り仕切っているという。なかには天狗に化身する前の素性がは
っきりしている人もいるから不思議です。そんな天狗に会おうと各
地の山々を巡ってテントを張って待つのですが、未だにあらわれて
くれないのが心残りです。

 登山後、山麓の山村をぶらつき、神社やお寺を訪ねるのも楽しみ
のひとつです。境内には村内各地にあった神々が集められ、合祀さ
れている場合も多い。石仏にはかつては医者にもかかれなかった人
たちがまつった目や耳、足腰の病気を治す神、作物の神、職業繁盛
の神など民衆の願望がにじんでいます。珍しいものでは貸したお金
が踏み倒されたのか、「催促神」という石仏もあります。

 この度、このような放浪徘徊で得たものを、独り占めにしておく
にはもったいないと、面白い石仏や伝説、奥深い神仏の物語をまと
める機会を得ました。結果的にずいぶん多くの山や峠、山里の神々
を訪ね歩いたものだと自分ながらいま改めて驚いています。

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 巻末に「年号と西暦の一覧表」をつけましたので参考になれば幸
いです。この神々を調べるにあたり、祠の中を覗いたりスケールで
大きさを測ったり、ずいぶん無礼なこともあったと思います。読者
の皆さまが興味関心をもって戴くことにより、私の犯した罰が少し
でも軽くなることを願いつつ……。(拝)

 なお、この本の内容は、雑誌「山と渓谷」、「ビスターリ」、
「ヤマケイJOY」(以上山と渓谷社)、「パッカーズ」(パウ
ダーガイド社)、「寺と生活」(青樹舎)、「あしなか」(山村
民俗の会)、「都岳連通信」(東京都山岳連盟)、「山嶺」(東
京野歩路会)、「イラストふるさとの神々なんでも事典」(富民
協会)などに発表した作品に加筆したものを含んでいます。

2008年7月         とよた 時

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【とよだ 時】 山の漫画文著作
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【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

 

 

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