『いなかの神さま仏さま』(上)
第3章 鬼 神

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▼03-05「魏石鬼の子分鬼・常念坊」

【序文】(140字)

春、この山にできる雪形は常念坊という坊さんの姿だという。平
安時代、八面大王魏石鬼の手下の常念坊がまゆみ岳に逃げ込んだ。
それからはふもとの酒屋に怪しい僧がやってきては5合の徳利に
5升くれという。つぐと不思議に入ってしまう。「あれは常念坊に
違いない」、人々はまゆみ岳を常念岳と呼ぶようになったという。
・長野県松本市と安曇野市との境

▼03-05「魏石鬼の子分鬼・常念坊」
【本文】
 北アルプスの常念岳には春、常念坊という呼ばれる雪形が出て、
ふもとの安曇野の人たちに親しまれ、常念坊伝説までつくられ、
また農作業の目安にもされています。雪形は、前常念の東面に黒
くあらわれ、左向きの姿で、よく見ると手に托鉢用の鉢を持って
います。4月初旬〜中旬、長野県安曇野市(豊科、穂高)付近で
見られます。

 この山はもともとは「まゆみ岳」と呼ばれていたという。乗鞍
岳とも呼んでいましたが、江戸時代の享保9(1724)年の地誌『信
府統記』に常念岳と記載されていることから、以後常念岳が通称
としてほぼ定着したといわれます。この山は怪僧常念坊伝説が有
名です。雪形にもなってあらわれ、4月上旬から下旬にかけて前
常念岳の東側にお坊さんの形になります。

 またその名は、穂高町の満願寺の住職・常念坊が開山したから
とも、田尻村(いまの堀金村)の正福院(明治維新に廃寺)の修
験者常念坊が登るようになったからともいわれています。

 こんな話もあります。平安時代、坂上田村麻呂が有明山の岩屋
に住む魏石鬼(ぎしき)八面大王を討伐した時、大王の手下の鬼
ともいわれる、常念坊という鬼が空を飛び、まゆみ岳(常念岳)
に逃げ込みそのまま岩屋にすみみついたという。この鬼はなぜか
念仏をよく唱えていたそうです。

 常念坊は毎年里で市が開かれと酒を買いにあらわれ、五合徳利
を差し出し「五升入れてくれ」という。酒屋のおやじが、頭をひ
ねりながらも徳利についでみると、不思議なことにこの徳利に五
升の酒が入ってしまうという。

 不思議な出来事に「あれはまゆみ岳の常念坊だ」というように
なり、いつか常念岳が通用するようになったという。それを村人
が聞いて、「あの坊さんはまゆみ岳の常念坊に違いない」と話し合
い、いつかまゆみ岳のことを常念岳と呼ぶようになったのだそう
です。

 また密猟者がこの山の谷で野営をしていると、頂上から勤行の
経と鐘の音が夜通し聞こえ、良心の呵責にあい一晩中眠れず、2
度とこの山に近づかなかったという話もあります。そのほか、同
じ長野県安曇野市穂高(旧南安曇郡穂高町)牧にある栗尾山満願
寺のお坊さんの常念坊が初めて登った山なので常念岳になったと
いう説。

 あるいは長野県安曇野市堀金(旧南安曇郡堀金村)では田尻の
正福院(明治維新に廃寺)というお寺の常念坊という山伏が登る
ようになったのが山名のもとだともいわれているようです。

 また山ろくの村々では、正月の飾りつけをする時、神棚の前に
「山姥の松」を立てて、お神酒をあげて常念坊の精が町の市にや
ってくるのを待つ慣わしがあるという(『日本山岳ルーツ大辞典』)。
常念坊は春、4月初旬から下旬にかけて前常念岳の東側に雪形と
なってあらわれます。この常念坊の雪形が消えると白色(ポジ形)
の万能鍬の雪形が南沢の浸食岩壁にあらわれるという。

 この一帯はタカネヒカゲ・ミヤマモンキチョウ・クモマベニヒ
カゲなど、本州の高山蝶9種の全部を確認できたそうです。ある
8月、常念岳から下山したついでに満願寺へ寄ってみました。そ
して常念岳の名は、満願寺のお坊さんの常念坊からきているとい
う説をご住職に聞きました。「さあ、聞いたことがない」。アラ…
…。

 知らないといわれればとりつくしまがない。たしかに複数の本
に載っているんだがな?ちなみに「常念が峰だけ出て雲が帯のよ
うにひくと雨になる」、「常念に朝日が当たるとその日は晴れ」な
どの言い伝えもあります。
・長野県松本市と安曇野市との境

▼常念岳【データ】
【所在地】
・長野県松本市安曇と長野県安曇野市堀金との境。大糸線豊科駅の
北西16キロ。JR大糸線穂高駅からタクシーでヒエ平下車、歩いて
4時間半で常念岳。写真測量による標高点(2857m)がある。常
念坊の祠がある。地形図に山名と標高点の標高の記載あり。標高
点より北方向882mに常念乗越・常念小屋がある
【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第56番):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。
【位置】
・標高点:北緯36度19分31.9秒、東経137度43分39.2秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「穂高岳(高山)」
【参考資料】
・『北アルプス白馬連峰 その歴史と民俗』長沢武(郷土出版社)
1986年(昭和61)
・『角川日本地名大辞典20・長野県』市川健夫ほか編(角川書店)
1990年(平成2)
・『信州山岳百科1』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本伝説大系7・中部』(長野・静岡・愛知・岐阜)岡部由文
ほか(みずうみ書房)1982年(昭和57)
・『日本の民話10』(信州・越中編)
・『日本歴史地名大系20・長野県の地名』一志茂樹ほか(平凡社)
1990年(平成2)
・『名山の文化史』高橋千劔破(河出書房新社)2007年(平成19)
・『柳田國男全集6』柳田國男(ちくま文庫/筑摩書房)1989年(昭
和64・平成1)

 

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