『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第9章 路傍の石碑

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▼09-04「庚申塔」

【序文】140字

村の辻や道ばたに庚申塔が建っています。庚申待ちの供養塔です。
庚申は暦の十干十二支のひとつの「かのえ(庚)さる(申)」の日。
この日はみんなでお堂に集まり食べたり飲んだりしながら夜も眠な
いで過ごし、健康長寿を願います。中国道教の三尸の虫の思想がも
とになっています。娯楽のない時代の楽しみのひとつだったようで
す。

▼09-04「庚申塔」

【本文】
村はずれでよく見かける石仏に庚申塔があります。庚申の文字を刻
んだ塔や、青面金剛(しょうめんこんごう)像を中心にして、たな
びく雲と太陽や月、三猿を彫ったものなどもあります。庚申は、「か
のえ(庚)」と「さる(申)」。これは十干(じっかん)十二支(カ
レンダーの日にちのところにも記入されている)というものの一つ
だそうです。十干と十二支の組み合わせは60回に一度まわってき
ます。

この60日に一度めぐってくる「かのえさる」の日の夜を眠らずに
過ごし、健康で長生きしようとするのが守庚申(しゅこうしん)と
か、庚申待ちとかいわれる信仰です。中国の道教に、人間の体には
三尸(さんし)の虫がすんでいて害を与えるという思想があります。
三尸とは上尸、中尸、下尸の虫。上尸は頭に、中尸は腹に、下尸は
足にそれぞれすんでいて、人に害を与えるという。

このやっかいな虫が「かのえさる」の夜、人の寝ている間にひそか
に抜け出し、玉皇天帝(北極星)のところに行き、その人の悪事罪
科を報告。天帝は鬼籍という台帳に書き込み、罪が500条に達す
るとその人の死を決めるという。そうはさせまいとするのが庚申待
ちの行事です。「かのえさる」の夜、お堂に集まり飲んだり食べた
りし、一晩中眠らず、三尸の虫を封じ込めようというわけです。

そして庚申塔に彫ってある三猿のように「見ざる、聞かざる、言わ
ざるで頼むよ」と三尸の虫に祈ります。庚申待ちの信仰は、年6回
の庚申のたびごとに、あるいは初庚申・終庚申の2回だけ行うとこ
ろなど地方によってさまざまです。この眠らずに徹夜することを守
庚申(しゅこうしん)といい、平安時代初期、承和(じょうわ)5
(838)年を少しさかのぽるころから行われたという。その後、守
庚申は、宮中や宮廷貴族などが、宴遊を主に行い、鎌倉時代になる
と武家たちにも広まっていきます。

室町時代のなかばになると、僧侶や修験者が関わるようになり、呼
び方も「守庚申」から「庚申待ち」に変わり、仏教色が濃くなりま
す。僧侶の手で「庚申縁起」がつくられ、講的結集が組まれ礼拝本
尊も考え出され、庚申待ちの信仰として一般の人たちに普及してい
きました。

一方、この庚申待よりも以前から行われていた行事に、日待ち、月
待ち、念仏講などがあります。これらは講をいとなみ、供養塔も造
立していました。庚申待もこれにならって塔を建てるようになった
という。日本でいちばん古い庚申塔は、室町時代後期、戦国時代に
なりはじめの文明3(1471)年に建立された、埼玉県川口市領家に
ある実相寺の庚申板碑(いたび)なのだそうです。

この庚申塔にも種類があります。塔の型のちがいでは、宝塔型、陀
羅尼(だらに)を納める宝篋印塔(ほうきょういんとう)型、六角
や八角の柱状幢身の石塔の石幢型、燈籠型、層塔型や五輪塔型、板
碑(石塔婆の一種)型、また自然の岸壁に彫刻した磨崖仏型、石祠
型などがあり、なかには自然石のものまであります。仏像を彫った
庚申塔には、青面金剛(しょうめんこんごう・肺結核である伝尸(で
んし)病を除くという仏教の青面金剛法の伝尸と、庚申の三尸の語
呂が似ているというところから結びついた)が全国でいちばんよく
見られるという。

庚申の「申」はさると読みます。猿といえば猿田彦神(天孫降臨の
際、道案内をしたという)、また帝釈天のお使いは猿。さらに日吉
山王七社のお使いも猿というので、庚申と習合しそれぞれの像が彫
られています。その他、大日、阿弥陀、釈迦、薬師や観音、地蔵さ
らに田の神や道祖神像の庚申塔まであります。また、文字塔のたぐ
いには、庚申とだけ書かれたもの、百庚申、千庚申、五庚申、七庚
申、庚申供養塔、庚申像、青面金剛尊、猿田彦大神、帝釈天などな
ど。その他、庚申堂や庚申の祠に青面金剛や帝釈天を安置したもの
もあります。

▼【参考文献】
・「あしなか・255輯」庚申信仰特集
・『信州の石仏』曽根原駿吉郎(文一総合出版)1980年(昭和55)
・『旅と伝説』三元社(17年2月号)中村桂風:「民俗学資料集成29」
(岩崎美術社)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『日本全国神話伝説道指南』吉元昭治(勉誠出版)
・『日本伝説大系3・南奥羽・越後』(山形・福島・新潟)大迫徳行
ほか(みずうみ書房)1982年(昭和57)
・『日本の神々』:「芸術新潮1996年3月号」新潮社
・『日本の石仏』(甲信東海)大護八郎(国書刊行会刊)
・『日本の民俗・全47巻』(第一法規出版)昭和46(1971)年〜昭
和50(1975)年
・『日本発見 石仏紀行』(暁教育図書)1980年(昭和55)
・『日本発見・祭り』(暁教育図書)1983年(昭和58)
・『目で見る民俗神3』(境と辻の神)萩原秀三郎(東京美術)1988
年(昭和63)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
・『柳田國男全集16』ちくま文庫(筑摩書房)1990年(平成2)

 

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