『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第4章 天狗神

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▼04-16「富士山の天狗

【序文】(140字)

富士山五合目には富士山正真坊天狗という天狗がいることになっ
ています。小御獄神社には、天狗絵馬もあり、売店のそばに天狗
像の顔写真の看板があります。ある時、そばにいた若者に、写真
を撮りたいのでちょっと顔を出してくれない?と、頼んだら天狗
の面のところにきまり悪そうな顔が出てきました。アリガトウ。

富士山の天狗

【本文】
太古の昔から詩歌、紀行、史実にあらわされ、また山岳信仰のメッ
カとしてあがめられてきた富士山に天狗がいないわけがありませ
ん。富士山の天狗といえば富士太郎坊権現がいます。これは富士山
の表参道・静岡県側、新五合目南方の高鉢山(一六四九m)にまつ
られていて、登山者を守った天狗。陀羅尼坊とも呼ばれ表参道村山
浅間の修験行者たちが護山護法の神としてまつりました。

この天狗像は、いま静岡県富士宮市の村山浅間神社の宝物館に「高
鉢権現」として所蔵されており、尻尾の太い白キツネの背に左足で
立ち、右足で雲を踏もうと上げる格好のもの。左右いっぱいに翼を
広げ、頭の上に火炎をかかげています。

白キツネに乗り、火炎を背負った姿はまるで飯縄系の天狗に似てい
ますが、細部は独創的な作者の神経が行き届き最高傑作のひとつだ
と天狗研究者・知切光歳は「天狗列伝」で絶賛しています。この像
は明治の廃仏棄釈の騒ぎの中、一時民間の家々に流出しましたが、
まつられる先々で次々と怪異が起こるため、最終的に現在のところ
に落ち着いたものといいます。

一方山梨県側、富士吉田市浅間神社北口本宮にも大きな天狗面が掲
げられています。またスバルライン終点北口五合目に小御獄神社が
あって境内に天狗・正真坊の像があります。正真坊の住処は五合目
駐車場からお中道に入り一時間も歩くと御庭があらわれ、そこから
右へ下った奥庭周辺を含め天狗の庭と呼ばれるところ。奥庭荘付近
には「天狗石」もあります。このあたりは雄大な富士山頂をバック
にカラマツが地を這って生えています。

五合目小御獄神社には日本武尊や富士山の祭神である木花開耶姫の
姉の磐長姫命(いわながひめのみこと)のほか大天狗小天狗の社も
あります。そばに天狗像の顔の部分から顔を出して記念撮影ができ
る看板がありました。写真を撮りたいのでちょっと顔を出してくれ
ない?と、そばにいた見知らぬ若者に頼んだら天狗の面のところに
きまり悪そうな顔が出てきました。有り難う。

なお、ここの神社で頒布している正真坊の軸があり写真で見る限り
では、上に図案化された富士山が描かれ、その下の霧で白くなった
部分の真ん中に「富士山小御獄神社」墨で一行書き、その下に赤い
大岩があり磐長姫命とあります。さらにその下に岩に乗った一対の
天狗が向かい合い、右の天狗は鼻の高い赤顔で羽を広げ羽布団を持
った形。左の天狗は青顔、くちばしのとがったカラス天狗でやはり
羽を広げ頭上に刀をかざした形でした。

▼【参考文献】
・『甲斐国志』(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大
日本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)所収
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『富士山よもやま話』遠藤秀男(静岡新聞社)1989年(平成元)
・『山ことばと炉端話』山村民俗の会編(百水社)1991年(平成3)

 

 

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山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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