『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第4章 天狗神

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▼04-10「飯綱三郎天狗」

【序文】140字

長野県の飯縄(綱)山には飯綱三郎という天狗がいることになって
います。この天狗は京都愛宕山の太郎坊、滋賀県の比良山次郎坊の
次ぐという意味でたいした大物という。この山には三郎のほかに「千日太
夫」がいるといいますが、この天狗は小動物を使って、人の過去や未来を
告げる邪法の「飯縄の法」の始祖だそうです。
・長野市と戸隠村・牟礼村との境。

▼04-10「飯綱三郎天狗」

【本文】
長野県の飯縄(綱)山には飯綱三郎という天狗がいることになって
います。この天狗は京都愛宕山の太郎坊、滋賀県の比良山次郎坊の
次ぎとされています。長野県戸隠側では「伊都奈(いづな)三郎」と
も書くそうです。飯綱三郎は日本の有名な天狗をとりあげた「日本
八天狗」の一狗(天狗は一狗二狗と数える)にも入っています。三
郎とは、京都の愛宕山(あたごさん)太郎坊、滋賀の比良山(ひら
さん)次郎坊という天狗の次の格という意味になります。

鎌倉時代末とも室町時代にできたともいわれる戸隠の古い記録『戸
隠山顕光院流記』には「伊都奈三郎は日本第三の天狗なり」とまで
書かれ、天狗仲間ではたいした大物なのだそうです。それこそ平安
初期からの天狗であります。

三郎天狗になる前は泰澄上人の従者・臥行者(ふし・ふせ(り)のぎ
ょうじゃ)だったとも、その流れをくむ学問行者だとの説もありま
す。また永観(983年)のころの、信濃の穂高村出身という。

いま静岡県秋葉山にいる天狗三尺坊が戸隠山の西窟にこもって修行
したという記録もあります。そんなことから三尺坊の本地(ほんじ
・本来の姿)だとの説があります。ここは秋葉信仰の秋葉山三尺坊
大権現(静岡県秋葉山神社)の出地との伝説もあります。

三尺坊天狗の母は、観音が天狗に変身した夢をみてみごもったとさ
れ、三尺坊は火伏せの法に通じた観音の化身の天狗だという。しか
し、それとは別に三尺坊はち、越後の守門岳(すもんだけ)の麓の熊野
社三尺坊というところでで生きながら天狗に化したという話もあります。
そんなことからやはり古くからいわれてきた山神説が正解ではないか
と研究者はいっています。

この山にももう一狗、飯縄山千日太夫という天狗がいるといいます。
この千日太夫は、「管狐(くだぎつね)」という人には見えない小動物を
使って、人の過去や未来を告げさせる飯縄邪法の始祖だという。

鎌倉初期、長野県萩野(いまの信州新町)の城主・伊藤兵部太夫豊
前守忠綱がこの山にこもって穀食を断ち千日間の修行の末、この飯
縄邪法をあみだします。人々は彼を千日豊前(ぶぜん)と呼びまし
た。忠綱の息子の次郎太夫盛綱も父にならって同じように千日修行
をし、千日太夫と呼ばれるようになり、忠綱の子孫が代々その名を
受けついだといいます。

穀食を断ったといっても、何も食べないわけにはいきません。そこ
で栄養分にしたのが、天狗の麦飯といわれる飯砂(いいずな)(食
用になる土)です。

これは、土の上に木の葉や実が落ちて重なり、長年温められて発酵
したもので、栄養分もあり飢饉にはふもとの住民は蒸して食べ、命
をつないだというもの。飯縄(飯綱)山はもと飯砂山と書き、山の
名はこの天狗の麦飯が語源だそうな。いまは天然記念物になってい
て採集は禁止されています。

飯縄邪法受けつぐ飯縄修験は、インドのヒンズー教の魔女からきた
荼吉尼天の思想を基幹とし、その社を飯縄権現といいました。ここ
の修験は、もとは天台派の戸隠修験に属していた真言派の戸隠宝光
社の衆が、1270(文永7)年に分裂して大挙して戸隠を離れ、飯縄
の一峰である霊仙寺に移り、飯縄修験になったものです。

飯縄修験は古くから有名だった飯綱三郎の名を利用、飯縄の法に格
をつけて重みを増してきました。以後、いろいろな為政者の尊崇を
うけて栄えましたが、やっていることが人をまどわせ恐れさせる呪
法です。世間からいやがられて滅亡への一途。いまは山頂直下に荼
吉尼天の石像があるだけです。「飯縄の法」自体を知っている人も
少なくなりました。

【参考文献】
・『角川日本地名大辞典20・長野県』市川健夫ほか編(角川書店)1
990年(平成2)
・『山岳宗教史研究叢書7』(修験道史料集T)五来重編(名著出版)
1983年(昭和58)
・『山岳宗教史研究叢書9』(富士・御嶽と中部霊山)鈴木昭英編(名
著出版)1978年(昭和53年)
・『山岳宗教史研究叢書16』(修験道の伝承文化)五来重編 (名著
出版)1981年(昭和56)
・『山岳宗教史研究叢書17』(修験道史料集T)五木重編(名著出版)
1983年(昭和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『信州山岳百科3』(信濃毎日新聞社)1983年(昭和58)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭
和52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本の天然記念物三』(講談社)1984年(昭和59)
・『日本歴史地名大系20・長野県の地名』(平凡社)1979年(昭和54)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)

 

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