『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第4章 天狗神

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▼04-01「天狗のはじまり」

【序文】140字
山を歩いていると天狗岳、天狗岩、天狗平などの地名をよく見かけ
ます。天狗は早くも『日本書紀』舒明天皇の条に出てきます。この
年、都の空に突然大彗星が現われ、不吉の前兆と不安がる人々に、
中国での留学から帰ったばかりの僧の旻が、「これはあまつきつね
なり」といったというの日本で最初の天狗の記録だという。

▼04-01「天狗のはじまり」

【本文】
 山を歩いていると天狗岳、天狗岩、天狗平などの地名をよく見か
けます。辞典には「深山に住むといわれる怪物。人間の形をして顔
が赤く、鼻が高く、不老不死、神通力で自由に空を飛ぶいたずらも
の」とあります。

 ところで、中国では古くから災いをもたらすといわれる、天かけ
る星・流星やすい星を天狗といっていたそうです。中国の古書『史
記天官集』第五には「テングは状大奔星の如くにして声あり、その
下りて地に止まるや狗に類すウンヌン」とあり、やはり流星をテン
グ星と呼んでいます。

 天狗は早くも『日本書紀』(巻第二十三)舒明天皇9年の条に、
天狗(あまつきつね)の文字がでてきます。「九年春二月(きさら
ぎ)丙辰(ひのえたつ)の朔(ついたち)戊寅(つちのえとらのひ)
に大きなる星、東(ひむがし)より西に流る。便(すなわち)音あ
りて雷(いかづち)に似たり、時の人の曰(い)はく、「流星(な
がれぼし)の音なり」といふ。亦(また)は曰(い)はく、地雷(ち
のいかづち)なり」といふ。是(ここ)、僧旻(みん)僧(ほふし)
(※法師)が曰(い)はく、「流星に非(あら)ず。是(これ)天
狗(あまつきつね)なり。其の吠ゆる声雷(いかづち)に似たらく
のみ」といふ」(岩波文庫「日本書紀4」)、と何やらコムズカシそ
うな言葉がならんでいます。

 つまり、飛鳥時代、舒明(じょめい)天皇9(637)年のきさら
ぎの丙辰(ひのえたつ)の23日に、都の空に突然大彗星が現われ、
ゴロゴロと雷のような音をたてながら西の方に飛んでいった。不吉
の前兆と不安がる人々に、中国への留学から帰国したばかりの僧の
旻が、「これはあまつきつねなり」といったというのです。これが
日本で最初の天狗の記録だということです。この時代にはいまでい
うテングのイメージはうまれていないようです。

 その後、天狗の記録は200数十年間なにもなく、平安中期になり
『源氏物語』、『宇都保物語』などに登場しはじめ、平安時代後期の
『今昔物語』に「今は昔、天竺に天狗ありけり」などとちらほら出
てくるようになります。

 鎌倉時代になってからは、『平治物語』の京都鞍馬山で牛若丸が
天狗を師として修行する話や、『平家物語』、『源平盛衰記』などに
ゾロゾロ出てくるようになります。しかし当時の天狗は、くちばし
の尖ったトンビのような顔、全身毛むくじゃらの獣姿のカラス天狗
でした。いまのような鼻の高い山伏姿の天狗があらわれたのは室町
末期になってからだそうです。

 さらに下った南北朝のあたりから、天狗への考え方は思想は修験
道と結びつき、お寺と同じように、「なんとか山かんとか坊」のよ
うに、それぞれの山号に僧正、阿闍梨(あじゃり)、内供奉(ない
ぐぶ)、薩?(土偏に垂・さった)などの名前がつけられはじめま
す。天狗たちが一番活躍したのはこの南北朝時代なのだそうです。

 天狗というと日本特有の魔界だとされていますが、外国にも天狗
はいたようです。『是害坊絵巻』(鎌倉時代)によると、中国の大天
狗の首領・是害坊(ぜがいぼう)天狗が、日本の比叡山の坊さんに
戦いを挑むためやってきて、愛宕山の天狗集団の所にわらじをぬい
だという。

 そして何回か僧と戦いましたが負けてしまったそうです。これで
は「格好」悪くて本国へ帰れないだろうと、愛宕山の天狗にそその
かされて3度目に挑戦しましたが、こんどは座主(ざす)の慈恵大
師が相手でしたからたまりません。さんざん打ちのめされて本国へ
逃げ帰ったということです。

▼【参考文献】
・『今昔物語集』(巻第二十):日本古典文学全集24『今昔物語集3』
馬淵和夫ほか校注・訳(小学館)1995年(平成7)
・『新著聞集』椋梨一雪原著、神谷養勇軒編。:(『日本随筆大成第
二期第5巻』日本随筆大成編輯部編(吉川弘文館)1994年(平成
6)所収
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『太平記』:新潮日本古典集成『太平記4』山下宏明・校注(新
潮社)1991年(平成3)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『日本書紀』(巻第二十三):岩波文庫『日本書紀4』坂本太郎ほ
か校注(岩波書店)1996年(平成8)
・『日本神話伝説伝承地紀行』(吉元昭治著)(勉誠出版)2005年(平
成17)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『耳嚢・耳袋』巻之十(根岸鎮衛)1814(文化11年):日本庶民
生活史料集成16『耳嚢・耳袋』鈴木棠三ほか編(三一書房)1989
年(平成1)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

 

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