『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第3章 鬼 神

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▼03-02「房総・鹿野山の鬼」

【序文】140字

房総の鹿野山には日本武尊に征伐されたという鬼・阿久留王の墓が
あります。鹿野山の名はもともとは金属が生まれる意味の金生(か
のう)からきており、鹿野山は鉄の山だという。その製鉄部族の王
が阿久留王だという。製鉄の神として毎月1回尼さんの読経の前で
地元の製鉄関連の会社が供養しています。
・千葉県君津市。

▼03-02「房総・鹿野山の鬼」

【本文】
神話の日本武尊伝説は、征伐する話ばかりで、された側は鬼や悪神
ぐらいで片づけられています。しかし、鬼はもともと隠れて見えな
いものをいうオヌ(穏)の転化。また「オ」は丁寧語の御、「ニ」
は尊敬畏怖を表すという。つまり、大和朝廷からみて、見たことの
ない強くて怖い地方部族は「鬼」ということになるわけです。

房総丘陵の北端に位置する鹿野山(かのうざん)は、352mという
標高に似合わず、南東部の浸食は深く、九十九谷を形成しています。
山頂は、東から白鳥峰、熊野峰、春日峰の3峰に分かれ、熊野峰に
は聖徳太子開基(推古天皇6年=西暦598年9月、聖徳太子が、調
子丸舎人(とねり)と大伴田力丸を従え、黒駒に跨り富士山に登り
信越を廻ってのち、当山が仏法有縁の霊地であるとしてここに梵字
を構えたという)と伝える真言宗の神野寺があります。

神野寺は以前、トラ騒動で有名になったところ。この鹿野山には鬼
がすんでいたという。そういえば近くに鬼の涙と書く鬼泪山(きな
だやま)の地名も見えます。

鬼の名は阿久留王(あくるおう・一名六手王)といい、もともとは
このあたりを支配する製鉄部族の王だと伝えます。だいたい鹿野山
は、金属が生まれると書く「かのうざん・金生山」が語源で、金属
を生む山の意味で製鉄に関係する山だとの説もあります。

このあたりには鉄をつくる際にでる「カナクソ」がよく出ます。以
前、実際にここで見たこともあります。また「金谷」などの金属に
関係ある地名もあり、鋸山山ろくに祭られる鉄尊(てっそん)神社
は、鉄の円盤がご神体になっています。

この王は北ろくの六手地区(君津市)の出身という。地方の部族の
王は「鬼」として象徴されます。この阿久留王は鬼とされ日本武尊
と戦うことになります。

『古事記』にも「…そこより入り幸して(上総の国から<東方へ>入
って行き)、ことごと荒ぶる(すべて荒れすさぶ)蝦夷(えみし)
等(ども)を言向け(服従させ)、また山河の荒ぶる神等(たち)
を平和(やは)して、(都へ)還(かへ)り上(のぼ)り幸(いで
ま)しし時に、足柄の坂本に至りて(坂の麓に着いて)……」とあ
ります。この時、阿久留王を殺害したという。

このようにして大和武尊は、製鉄部族をねらって平定して歩いてい
たと聞きます。大和武尊との戦いで敗れた王は、西方の鬼泪(きな
だ)山まで逃げ、涙(泪)を流して命乞いをしましたが、武尊は許
さなかったという。そこで相当残酷なことがあったらしい。

その証拠には鬼泪山北麓を流れる染川(血染(ちぞめ)川)は、王
の血が3日3晩流れつづけた川。それが腐敗してそそいだ所が東京
湾の千種浦(血臭浦・ちぐさうら・富津市千種新田)だとしていま
す。染川の水源は鹿野山の春日峰の蛇堀で、常に白蛇がすみ、里人
は近寄らぬという。

先に述べたように、地元の史誌である『房総史料続編』にも神野寺
の本尊は薬師と軍荼利で「軍荼利明王は鹿野山強賊悪楼王(阿久留
王)を祭る、日本武尊悪楼王征伐の後其の性暴悪なる故に後世に祟
をなさしめざるために此処に祭りたるべし」とあります。

鬼とされる阿久留王の墓は神野寺の裏崖の下の杉林の中にありま
す。製鉄部族の王となれば阿久留王は製鉄の神。毎月1回、地元の
製鉄関連の会社が供養しているという。

ある年の6月、九十九谷から「マムシ谷」の崖に取りつき、ゴルフ
場わきにはい上がりました。ゴルフ場から北側に下る舗装道路に、
地元製鉄の関連会社の人たちの車がたくさん止まっています。マイ
クロバスの運転手さんから聞いた話だと阿久留王の供養をしている
という。

林の中には阿久留王をまつる塚があって、祭壇前では神野寺の尼さ
んが読経しています。その後ろに大勢の人たちが神妙な顔をしてな
らび、読経に合わせて代わる代わる焼香をしていました。供養は毎
月、月はじめに行われるという。
・千葉県君津市

▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典12・千葉』川村優ほか編(角川書店)1984
年(昭和59)
・『鹿野山と山岳信仰』岡倉捷郎(崙書房)1988年(昭和63)
・『鹿野山と上総の山岳信仰』府間修:『山岳宗教史研究叢書8』(日
光山と関東の修験道)宮田登・宮本袈裟雄編(名著出版)1979年(昭
和54)所収
・『古事記』:新潮日本古典集成・27『古事記』校注・西宮一民(新
潮社版)2005年(平成17)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『房総山岳志』内田栄一(論書房出版)2005年(平成17)
・「房総志料続篇」(巻之十)周集郡:(「房総叢書6」房総叢書刊行
会編(房総叢書刊行会発行)1941年(昭和16)所収
・「房総志料続篇」:(「山岳宗教史研究叢書・8」宮田登・宮本袈裟
雄編(名著出版)1979年(昭和54)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎(東京堂出版)1984年(昭和59)

 

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