『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第3章 鬼 神

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▼03-01「鬼神」

【序文】(140字)

鬼神と書かれるくらい鬼も神さまです。「冷血無情」な鬼にも困る
ことがるとあったとしたら愉快です。ここ東京都板橋区にある、東
京大仏として有名な赤塚山乗蓮寺境内にある鬼の石像は、「どんな
苦しみにもじっと耐えるがまんの鬼」だという。なるほどちょっぴ
り太り気味の鬼は、胃に穴でも開いてしまいそうながまんぶりです。

▼03-01「鬼神」
【本文】
冷血無情な人をよく「鬼のような」といいます。また「地獄の鬼」、
「鬼の目に涙」などのたとえもあります。かと思えば鬼は「福は内、
鬼は外」と豆で追い払われたりもします。絵などで見るその姿は、
裸で虎皮のふんどし、頭に角、裂けた口には、鋭い2本の牙、手に
はトゲトゲのついた鉄棒を持っています。

ではオニとは何んでしょうか。鬼は、平安時代の漢和辞書『倭名
類聚抄』に「鬼ハ物ニ隠レテ顕ハルコトヲ欲セザル故ニ、俗ニ呼ビ
テ隠ト云フナリ」と書かれているように「隠・おぬ」から転訛した
のだという。またそれとは別に、「オ」は「御」で、「ニ」は尊敬畏
怖をあらわすのだという説もあります。

鬼は中国ではもともと死者の霊魂のことであったという。漢代の王
充の『論衡』論死編に「鬼(き)は帰(き)なり」、「神(しん)は
伸(しん)なり」とあるそうです。「鬼は帰なり」は、人間の霊魂
は肉体が死んだら天に帰るという意味で、「神は伸なり」とは、万
物を引き伸ばす天の不思議な働きを神というのだそうであります。
後漢になると、インドから仏教が伝わりました。それに影響され「鬼
は畏(い)なり、また威(い)なり…」と鬼の概念は、怪異な性格
までも加わりました。その鬼の概念はその後、日本にも伝わってき
ます。

その前に、日本にも鬼の観念はありました。あの『日本書紀』(景
行記)に、天皇が東国遠征に向かう日本武尊(やまとたけるのみこ
と)に対して、「……。亦(また)山に邪(あ)しき神有り。郊(の
ら)に姦(かだま)しき鬼有り。衢(ちまた)に遮(さいぎ)り
徑(みち)を塞ぐ。……」とあります。鬼神(あしきかみ)、邪鬼
(あしきもの)とというわけです。つまり鬼というと、こわい異族、
超人、亡者などをさしていたことがわかります。

ただ、『日本書紀』斉明天皇7年(661)条には、「秋七月(あきふ
づき)の甲午(きのえうま)の朔(ついたち)丁巳(ひのとみのひ)
に、天皇(すめらみこと)、朝倉宮に崩(かむあが)りましぬ。八
月(はつき)の甲子(きのえね)の朔(ついたち)に皇太子、天皇
の喪(みも)を奉徒(ゐまつ)りて、還(かへ)りて磐瀬宮(いは
せのみや)に至る。是の夕(よひ)に、朝倉山(あさくらのやま)
の上(うへ)に、鬼(おに)有(あ)りて、大笠(おほかさ)を着
て、喪の儀(よそほひ)を臨(のぞ)み視(み)る。衆(ひとびと)
皆嗟怪(あやし)ぶ」。と、はじめて形としての鬼が現れます。

しかし時代が下るにつれ、鬼は凶悪な積極さを持ちはじめ、その概
念もがグンと変わってまいります。餓鬼や疫鬼なるものがあらわれ、
平安時代(9〜12世紀)ともなれば、地獄には地獄卒という赤鬼、
青鬼、牛鬼、馬鬼までがあらわれるしまつ。このような鬼の観念が
エスカレートしていき、鬼の数が増していきます。仏教の羅刹(ら
せつ)や夜叉(やしゃ)とも習合されます。

はじめは蓑(みの)を着て身体を隠し、大笠で顔も隠していた祖霊
が鬼の姿でした。それがいつのまにか、身の丈8尺〜9尺(約2.7
m)にも達するようになり、夜叉のように髪をふり乱し、体は赤黒
く、サルの目のような金壺眼で、ものいわぬ異形な姿と表現(鎌倉
時代中期の説話集『古今著聞集』)されるようになってしまいまし
た。

その後いろいろな英雄伝、昔ばばしから次第に鬼の観念は固定し、
陰陽道(おんみょうどう)の影響も受け、丑虎(うしとら)の方を
鬼門(きもん)とし、そこに鬼が集まるというので、鬼の頭を牛に、
腰から下を虎の形にかたどるようになります。そういえばいまの子
どもの絵本にも、頭には牛の角が生え、虎のパンツをはいています
よね。このように鬼神は時代の流れにしたがい、いつの間にか悪鬼
にさせられてしまったのであります。

こんな「冷血無情」な鬼にも困ることがるとあったとしたら愉快で
す。ここ東京都板橋区にある、東京大仏として有名な赤塚山乗蓮寺
境内にある鬼の石像は、「どんな苦しみにもじっと耐えるがまんの
鬼」だという。なるほどちょっぴり太り気味の鬼は、胃に穴でも開
いてしまいそうながまんぶりです。

▼【参考文献】
・『岩手の伝説』平野 直著(津軽書房刊)1983年(昭和58)
・『鬼の研究』知切光歳著(大陸書房)1978年(昭和53)
・『鬼の研究』馬場あき子(三一書房)1994年(平成6)
・『鬼と天皇』大和岩雄(白水社)1994年(平成6)
・「山と鬼」和歌森太郎:『山岳宗教史研究叢書6・山岳宗教と民
間信仰の研究』桜井徳太郎(名著出版)1976年(昭和51)
・『石仏紀行・日本発見』(暁教育図書)1980年(昭和55)
・『続百物語怪談集成』(叢書江戸文庫27)(太刀川清校訂)(国書
刊行会)1993年(平成5)
・『天狗と天皇』大和岩雄(白水社)1997年(平成9)
・『日本鬼総覧』(歴史読本特別増刊)(新人物往来社)1995年(平
成7)
・『日本書紀(四)』(岩波文庫)校注・坂本太郎ほか(岩波書店)1995
年(平成7)
・『日本伝説大系3・南奥羽・越後』(山形・福島・新潟)大迫徳
行ほか(みずうみ書房)1982年(昭和57)
・『日本の民俗・全47巻』(第一法規出版)昭和46(1971)年〜昭
和50(1975)年
・『日本妖怪異聞録』小松和彦(小学館)1992年(平成4)
・『ふるさとの伝説・日本発見』(暁教育図書)1980年(昭和55)
・『南方熊楠全集』(南方熊楠著)全12巻/別巻2(東洋文庫)岩村
忍編(平凡社)1991年(平成3)
・『東京古社名刹の旅』稲葉博(読売新聞社)1987年(昭和62)
・『日本大百科全書16』(小学館)1987年(昭和62)
・『日本伝奇伝説大事典』乾克己ほか編(角川書店)1990年(平成
2)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
・『山と日本人』民俗文化研究所(日本盲人会連合)1972年(昭和47)
・『柳田国男全集』柳田國男(ちくま文庫)全32巻(筑摩書店)1989
年(昭和64・平成1)〜1990年(平成2)
・『倭名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)源順(みなもとのし
たごう)編。:平安中期の辞書。

 

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