『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第2章 山の妖怪

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▼02-02「河童神」

【序文】(140字)

河童も神さまです。身長が4、5歳の子どもで、クチバシと手足に
水かきがあり、背中には甲羅があって、そのほかの体はウロコでお
おわれている……。キュウリと相撲が好きで、頭に水をたたえる皿
があってイタズラもの……と相場がきまっています。河童は大ムカ
シは『ミズチ」と呼ばれ、漢字で?と書き、水の霊のことだったそ
うです。

▼02-02「河童神」

【本文】
 村里を歩くと河童の話もよく出てきます。河童は山中でも見られ
るという。山中にも川もあれば淵もあります。まして山奥の大きな
峡谷には河童の好む砂地があちこちにあり、実際に河童を見たとい
う猟師の話もあります。

 河童は身長が4,5歳の子どもくらいで、クチバシと手足に水か
きがあり、背中には甲羅があって、そのほかの体はウロコでおおわ
れている……。キュウリと相撲が好きで、頭に水をたたえる皿があ
ってイタズラもの……と相場がきまっています。

 陸上でも力は強いですが水の中では特に強力で、人間ナンカはも
ちろんのこと、馬や牛でさえ引っ張り込んで、肛門に手を入れ、尻
子玉(しりこだま)を抜くといいます。おまけに生き血まで吸うと
いう、とんでもない妖怪です。

 河童伝承は全国にあり、地方地方でその呼び名も多くあります。
西日本ではガタロ(川太郎)、中国地方ではカワコ(川子)、エンコ、
エンコウ(猿候)、九州ではガワラッパ、やまわろ、東京地方では
メドチ、ミンツチ、能登のミズシン、そのほかカワランベ、ガメ、
カワシソウ、水虎などなどなど……。

 河童は大ムカシは『ミズチ」と呼ばれ、漢字で?(みずち)(き
ゅう)と書き、水の霊のことだったそうです。すなわち、水の神で
あり、農耕などにはかかせない神なのであります。

 あの『日本書紀』(巻十一・仁徳天皇六十七年)の条に備中川嶋
河にミズチという怪物がおり、毒をはいて人を苦しめていましたが、
笠臣(カサノオミ)の祖先の県守(アガタモリ)という人が退治し
たとあります。

 ならば河童イコール水神かというと、そうでもありません。豊か
な実りと多産の力を持つ母なる水神が、下界に使わし送られた悪童
なのだそうです。

 そういえば、河童の好きだとされる相撲は、稲作儀礼として行わ
れるお田植え祭や新穀祭の行事のなかで「ひとり相撲」なるものも
催されます。目に見えぬ田の精霊を相手にひとり取り組む姿をテレ
ビで見たことがあるでしょう。

 しからば河童とはいずこから来たのでしょうか。これには大きく
分けて3つに分けられます。「人形(ひとがた)化誕風渡来説」、「牛
頭天王(ごずてんのう)の御子(みこ)神説」、そして「水虎(す
いこ)説」というものだそうです。

 まず人形化誕とは、昔行った、疫やけがれや難を人形に託し川な
どに流すやり方です。これはいまでも流しびなとして残っています。
流しびなは、ひな祭りの古い形でけがれをひなに託して流したもの
です。その流された人形が、川の中で生まれ変わり河童に化したと
いうのです。

 また神社の築造の時、人手が足らず、大工が木片やわら人形に生
命を吹き込み加勢させ、一夜で建造させたという伝説が各地にあり
ます。

 ある高名な大工が観音堂をつくるに時、手斧で削った木片が白装
束の大工に変身して、何百人もの大工となって働き出し一夜で観音
堂が完成した。そののち、木片の白装束の大工たちは川に捨てられ
たとうのは青森県に伝わる話です。

 また、わら人形に生命を吹き込んで加勢させ、神社の完工後川に
捨てた時、人形が『これから先何を食ったらよいか」といってきま
した。そこで大工が、『人の尻でも食らえ」といったので、人形は
河童になって尻の玉をとるようになったという熊本県天草地方の伝
説。さらに工事の時人形が怠けたので、大工に木槌(きづち)で頭
をたたかれたという。そのため自然に頭の上がへこんでしまったと
いう話も加わります。

 このような神社の完工後に、人形たちを川に捨てたという伝説か
らこれが水中で河童になったというのが「人形化誕説」。その「人
形化誕説」に「渡来説」もくっついています。河童はその昔、唐天
竺(からてんじく)の黄河に大部族をなして住んでいたという。そ
の一部が郎党を引き連れ、海を渡り九州に渡ってきたというのです。
その族長は『九千坊」といい、その名前のとおり、一族は九千匹に
も達する繁栄ぶりだったという。田畑は荒らす、女性や子どもをか
どわかすというイタズラのし放題。それを聞いて怒った肥後の守・
加藤清正。サルを使って攻めたてます。河童はあえなく降参し、わ
びを入れて水難除けの神である水天宮につかえ、そのお使いになっ
たという言い伝えも福岡県や熊本県にあります。

 さらに「牛頭天王の御子説」。インドの祇園精舎(ぎおんしょう
じゃ)の守護神だった牛頭天王は、日本に伝来すると御霊信仰と習
合し、疫病の神ともみられるようになります。この御子神の系統に
深淵之水夜礼花神(ふかぶちのみずやれはなのかみ・水を司る神)
という、なにやらイミシンなる名の神が生まれます。これが水と穀
物の神であり、河童なのだという説です。

 また、深淵之水夜礼花神の祖父神である八島士奴美神(やしまじ
ぬみのかみ・大八洲をすべて知る神)を河童だとする伝承もありま
す。青森県の伝説では、河童はもとは兄の年神とともに大王の子で
あったという。しかし弟の河童は、ずるい性格で大王の怒りをかっ
てしまい、河に捨てられ河に住むようになったという。

 それにもうひとつ、中国から伝わった『水虎の説」も加わってい
ます。こうして災いや罪を託されて流された人形(ひとがた)の河
童、大工に川に捨てられた木片の河童、怒りをかって河にへ投げら
れた河童。こうした河童が人を恨んだり、たたるのは当然のことで
す。お尻から肝をぬいたり、馬などを水の中へ引きずり込んだりす
るイタズラをするのも分かるような気がします。女性の尻をなでる
ような悪さをすることは『古事記』や『日本書紀』に掲載されてい
るところ。河童が尻子玉を抜くのは竜神に供えるためだそうです。

 河童は雄ばかりといわれます。河童の子供が生まれるには、人間
のおなかを借りなければ鳴りません。青森県には、河童が生まれる
時は親の河童が引き取りに来るという伝説のあります。

 いずれにしてもこのイタズラ河童の十八番は、馬を水中に引き込
もうとする「河童の駒引き」。この話は全国にありますがそのほと
んどは失敗談。逆に捕まって、わび証文を書かせられたり、特効薬
の秘伝を伝授させられたり、なんとなく愛嬌のある神サマではあり
ます。ちなみに嫌いな者は金物だそうです。

 河童で有名な岩手県遠野市では、カッパの捕獲許可証があり観光
協会で販売しているそうです。求める人も多いそうで、捕まえそう
になったが残念ながら逃げられたという報告もあったとか。ちなみ
に河童の捕獲場所は市内の「カッパ淵」に限られ、、捕まえたとき
には同協会の承認を得るなど7箇条が書かれているという。

 北アルプス黒部川の源流にカベッケヶ原というところがありま
す。カベッケヶ原は「河化ヶ原」で河童が化ける意味だという。ま
た釣り人が、河童の餌になるイワナをあまりたくさん取りすぎたた
め、仕返しに舌を抜かれたいう話。夏になると河童たちがガヤガヤ
にぎやかに盆踊りする……など数多くの話があります。

 事実、昔の黒部の猟師たちは河童をよく見たといいます。カベッ
ケヶ原の下流「立石」付近でも、河砂に残された三本指の「河童の
足跡」がたくさん発見されたことがあり、山小屋のご主人が写真に
撮ったといいます。何年か前、ご主人にお会いし、印刷した写真を
見せて貰いましたが河原の砂に3本の指の跡がはっきり映っていま
す。1960年(昭和35)の8月のことだそうです。カベッケヶ原は
雲ノ平から黒部川源流の橋を渡り間もないところにありました。ク
マザサの生えたジメジメした平地で指導標が建っています。クマザ
サの中にもぐってガサガサやっていたら通りかかった登山者が後も
振り返らず駆けだしていきました。

 ちなみに尻子玉とは尻小玉とも書くそうです。タマネギのような
形をしていて、人間のお尻の近くにあって、魂のかたまりだとも、
肝臓だともいわれています。この大事な尻子玉を抜かれると腑抜け
になってしまい水に溺れ死ぬという。溺死した人の肛門は広がって
しまい、まるで何か抜き取られたようだそうです。その尻子玉は、
河童の親分である龍王に税金として納めるのだというから河童の世
界もキビシイようです。

▼【参考文献】
・『日本伝説大系8・北近畿』(滋賀・京都・兵庫)福田晃ほか(み
ずうみ書房)1988年(昭和63))
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『ふるさとの伝説・日本発見』(暁教育図書)1980年(昭和55)
・『にっぽん妖怪地図」阿部正路ほか(角川書店)2006年(平成18)
・岩波文庫『日本書紀(二)』坂本太郎ほか校注(岩波書店)1996
年(平成8)
・『耳嚢・耳袋」巻之一(根岸鎮衛)1814(文化11年):『日本庶民
生活史料集成・16」鈴木棠三ほか編(三一書房)1989年(平成1)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
・『妖怪』谷川健一:「日本民俗文化資料集成8巻」『妖怪』谷川健
一(三一書房)1991年(平成3)
・『柳田国男全集・文庫』全32巻(ちくま文庫)筑摩書店
・「妖怪情報マガジン〜妖怪王・63号」:「カッパ捕獲許可証」遠野
市観光協会
・『和漢三才図会』寺島良安著:東洋文庫『和漢三才図会7』島田
勇雄ほか(平凡社)1989年(昭和64・平成1)

 

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