『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第1章 山・谷・峠の神と怪物

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▼01-12「山の神」

【序文】(140字)

山村の小高い丘の大きな木の根元や、登山道のわきの大岩の下など
に山の神の祠を見かけます。山の神には農村の山の神と山村の山の
神があるという。農村のそれは春、里に降りてきて田の神になりま
す。それに対して山村の山の神は、山の獣や樹木を支配する神であ
り、山中の三つ又になっているような特徴のある木は、山の神木と
して根元に祠などをまつります。

▼01-12「山の神」

【本文】
山の神はコワイもの。これは家で亭主のたづなを握るヤマノカミも
同じこと、大昔から変わりません。醜く(徳島県)、ヤキモチやき
で、どういうわけかオコゼという、これまた醜い魚が大好きなので
あります。一方、山の神は弁財天にダンナをとられ歯ぎしりしてい
るとするのは岐阜県地方。それゆえ、木を切って弁財天を追い出し
てくれる山仕事の人たちの守り神になっているのだそうな。

また、宮城県の山の神は、3歳くらいのオンナノコ。細い小さな体
から「ホーイ、ホーイ」とか細い声を出すといいます。ことほどか
ように、山の神はヒドイ女神のように感じるのでありますが、では
山の神とはなんぞや?ということになりますと、これがサッパリ
「?」の神サマなのです。

神社道の山の神は、富士山の木花開耶媛命(このはなさくやひめ)
や摂津、伊豆などにある三島神社での大山祇命(おおやまずみのみ
こと)、比叡山の守護神・大山咋命(おおやまぐいのみこと)など
個有の神を主祭神にしています。ところがです。民間信仰での山の
神とくると、醜い女神だったり、逆に男神だったり、年に12人も
子どもを産む女神だったり、夫婦神、はては天狗だったりなどなど
エトセトラ。

その呼び名も所によって十二サマ、お里サマ、さがみサマ、さんじ
んサマといろいろに変化。祭日にいたっては2月と10月、3月と11
月、または毎月7日、9日、12日、あるいは正月、5月、9月の16
日とか、12月と正月などと、それは雑多なのであります。冬の間
山にいて、春、里におりて田の神に変身、農作物の実りを手伝い、
秋のとり入れが終わるとまた山の神になってお山に帰っていく…。
これは農民の考える山の神であります。

それに対して山村の人の考える山の神は、けものや樹木を支配する
神であり変身はしません。そのご神体は、時には老木だったり、巨
石だったり……。どういうわけか漁民の山の神というのもあります。
志摩半島や九州では「漁の神」として信仰しているそうです。新し
い船を海に入れるとき、山の神の管轄から切り離す儀式を行うとか。

山の神の祭日には酒をあげ、もちをついてお祭りをしますが、東北
地方では祭日の12月12日は、山の神が木の本数を数える日だとし、
山仕事を休まねばならないといいます。もし、山に入ると木の中に
数えこまれるとされ、木材関係者はもちろん、営林署までが休むな
らわしになっているとかいないとか。

三重県の伊賀地方には正月7日、山の神祭りのカギヒキ(鍵引き)
神事があり、名物になっています。ウツギの木のふたまたになった
大枝を男の数だけ束ね、シメナワにひっかけて、ホコラの前で引っ
ぱりあいます。増産された富を自分の村へ引き込む祭りだそうであ
ります。

滋賀県の山の神祭りは、男神、女神を結婚させる豊作の予祝(よし
ゅく)行事。1月6日、山の神のオン(男神)、メン(女神)と称
する人形の依代(よりしろ)をつくります。7日の祭日には仲人を
立てて、ことしの行司と来年の行司がオン、メンを持って向かいあ
い「ホイホイホイ」かけ声ヨロシク歩みよります。

そして見物人の爆笑のなか、オン、メンの下腹部につくってあるイ
チモツを和合させるのであります。その後酒をくみかわし、張り渡
してある大シメのおカギをゆすり「カギヒキ」をして、五穀豊穣(ほ
うじょう)を祈ります。

▼【参考文献】
・『日本山岳風土記3・富士とその周辺』(宝文館)1960年(昭和35)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『日本伝説大系12』(四国)(みずうみ書房)1982年(昭和57)
・『日本年中行事辞典』鈴木棠三(角川書店)1977年(昭和52)
・『日本の石仏8』(北関東篇)大塚省悟編(国書刊行会刊)1983
年(昭和58)
・『日本の石仏9』(東北編)板橋英三編(国書刊行会)1984年(昭
和59)
・『日本の民俗・全47巻』(第一法規出版)昭和46(1971)年〜昭
和50(1975)年
・『日本発見・祭り』(暁教育図書)1983年(昭和58)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『目で見る民俗神1』(山と森の神)萩原秀三郎(東京美術)1988
年(昭和63)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
・『柳田国男全集』柳田国男(ちくま文庫)1989年(昭和64・平
成1)
・『山と日本人』民俗文化研究所(日本盲人会連合)1972年(昭和47)

 

 

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