『いなかの神さま仏さま・上』(山と峠の神々)
第1章 山・谷・峠の神と怪物

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▼01-09「風 神

【序文】140字

いまでこそテレビで、天気図や気象衛星からの雲の動きを見られ
ますが、昔の人は、姿がないのに突如として吹き荒れ、またしず
まる。風を不思議に思い、暴風におののいて神を感じ、大いにお
それ信仰しました。この風神をしずめるため、厄病神と同じよう
に、お祭りをして神のご機嫌をとったりします。

▼01-09「風 神」

【本文】
高気圧や低気圧などの言葉もなく、まして風速計などのなかった大
イニシエには、姿がなく突如として吹き荒れる風は神のなせるわざ
以外のなにものでもありませんでした。人々は超人的力をもつ暴風
の前に、ひれ伏し、風の神にただご機嫌をとるためお祭りするのみ
でありました。

あの『古事記』や『日本書紀』には「吹揆(※ふきはら)ふ気化し
て神となりし風神」とて、志那津彦命(しなつひこのみこと)と志
那津比売命(しなつひめのみこと)の男女二神を指しています。志
那とは息が長いという意味だそうです。昔の人は風は神の息からお
こると考えていたようです。

また『和漢三才図会』には「颶(ぐ)(最大風速をもった強風の意
味)、按ずるに伊勢、尾張、美濃、飛騨の諸国では不時に暴風がく
ることを一目連(※いちもくれん)という。神風となす」とありま
す。天気図も気象衛星もない江戸時代の本に、一目連と、台風は一
つ目だといっているのには、オソレ入ります。いまでも三重県多度
町の多度神社の摂社に一目連神社があります。

風神とは、もと風伯または風師とよばれ、中国の古典「周礼(しゅ
らい)」にも、その祭礼を規定している箕(み)星のことだそうで
す。二十八宿の一つで射手座(いてざ)にあたります。箕の星座は、
箕(農家で風をおこして実と、からを分けるのに使う農具)に似て
いるため、風を象徴したのだそうです。

わがニッポンで、この風伯を祭った記録は『吾妻鏡』(あづまかが
み・東鑑とも)に出てきてはいますが、いまふつう風神といえばあ
の、風袋を背負った風神サマや、奈良・竜田大社にまつられている
志那都彦神、志那都比売神を指しています。

悪い風をしずめて豊作を祈るため、風神祭や風祭りをします。「万
葉集」にも「…君が見むその日までには山下(やました)の風な吹
きそとうす越えて、名に負へる杜(もり)に風祭せな」とあり、万
葉の時代にも風神祭りがあったようです。風神祭りは前出の竜田神
社の風神祭は有名ですが、台風の通りみちの日本では、かつてはあ
ちこちで風祭りが行われ、風祭という地名さえたくさんあります。

屋根の上に長い竹ざおをたて、その先に大きな袋をとりつけて、風
の神を袋の中につかまえ、封じこめようとする行事や、竹ざおの先
に鎌をしばり屋根にとりつけて、風神の風袋を切りさいてしまおう
とする「風切り鎌」の行事もあります。立春から数えて二百十日と
旧暦八月一日の八朔(はっさく)は、特に荒れ日といい、恐れまし
た。

八朔は農事にも大事な日。せっかく丹精した稲作も、風の神のごき
げんいかんでたちまちのうちに水のアワ。そこで赤飯をたいてお日
待ちしたり、「八朔ぶるまい」してみんなで供食、なかにはもちを
ついて祝う所もあります。

最近、農村に残そうといろいろ運動のある獅子舞い。これも風祭り
に関係のあるものが多く、とりわけ、栃木県の獅子舞いは「千早振
(ちはやぶ)る神の感得があるなれば、あらしするとも作にあたら
じ、この獅子は悪魔はらいの獅子なればあらしするとも作にさわら
ん」と歌いながら舞うといいます。

また、幣束(へいそく)を神社の境内や、山頂大木の先端に結びつ
けて、風害よけのまじないをするところもあります。富山県には、
「ふかぬ堂」という風神堂がたくさんあり、大風が吹かぬように祈
るためのお堂だったとか。風神をまつる神社はそのほか、長野県の
諏訪神社、風間神社、奈良県・広瀬神社や諸国の穴師神社などがあ
ります。

▼【参考文献】
・『吾妻鏡』(三)龍粛(りょうすすむ)訳注(岩波文庫)1997年
(平成9)
・『日本書紀』(一)坂本太郎ほか(岩波文庫)1995年(平成7)
・『古事記』(新潮日本古典集成)西宮一臣校注(新潮社)2005年
(平成17)
・『産業の神々』林正巳著(東京書籍)1981年(昭和56)
・『祖神守護神』川口謙二(東京美術)1979年(昭和54)
・『神々の系図』川口謙二(東京美術)1981年(昭和56)
・『日本大百科全書・20』(小学館)1990年(平成2)
・『日本の神々』:「芸術新潮1996年3月号」新潮社
・『日本の民俗・全47巻』(第一法規出版)昭和46(1971)年〜昭
和50(1975)年
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
・『和漢三才図会1』(東洋文庫447)(巻第1〜巻第6)寺島良安
(島田勇雄ほか訳)(平凡社)1988年(昭和63)

 

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