山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼988号「東京奥多摩・月夜見山」

【序文】
140字
奥多摩に月夜見山というロマンチックな名前の山があります。御
前山と三頭山の中間にあり、そばを奥多摩周遊道路が走っていま
す。この名は檜原村方面での呼び方だという。『奥多摩』という本
によると、南東側から突き上げる月夜見沢あたりに月読ノ尊を祀
る宮でもあったのではないかとしています。
・東京都奥多摩町と檜原村との境。
(本文は下記にあります)

▼988号「奥多摩・月夜見山、風張峠、鞘口峠」

【本文】

 東京の奥多摩に「月夜見山」というロマンチックな名前の山が
あります。ちょうど御前山と三頭山の中間にあり、すぐそばを奥
多摩周遊道路が走っています。月夜見山という名は南東ろくの檜
原村方面での呼び方だそうです。

 北西ろくの奥多摩町方面では、京道(きょうどう)山というそ
うです。またこの山の山頂付近の生層の岩塊によく岩茸(いわた
け)ができるので、菌岩山ともいうそうです。

 さて、月夜見山の名前は、南東側から突き上げる北秋川の支流、
月夜見沢という沢の名からきた名前だといいます。宮内敏雄著『奥
多摩』によると、なぜこの沢に「月夜見」の名がついたかに関し
て、これは仮説だとした上で「その沢辺に月読ノ尊(つきよみの
みこと)を祀る宮でもあったからではないかと推う。

 天照大神(あまてらすおおかみ)と御姉弟(きょうだい)の御
神を奉祀したこの神社が、藤原(集落)あたりの月夜見沢の滸(ほ
と)りにあったのではなかろうか」としています。

 月読ノ尊といえば、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が、黄泉(よ
み)の国から逃げ帰って、橘(たちばな)小門(おど)の阿波岐原
(あはぎはら)で禊ぎをしたとき、右の目を洗った時にあらわれた
神。天照大神、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)とと
もに三貴子といわれているそうです。

 『日本書紀』の一書(あるふみ)によれば、三貴子のうち天照大
神は高天原(天)を治め、月読命は「日に配(たぐ)いて天の事を
知らせ」とあります。そして、このような話が記されています。

 ある時、この神(月読ノ尊)が、豊葦原(とよあしはら)の中国
(なかつくに・本土)に降りました。その時、保食(うけもち)の
神が、食物を口から吐き出し奉るのをみて怒った月読ノ尊は、保食
(うけもち)の神を剣で殺してしまったのです。

 天に帰ってこのことを報告したところ、天照大神は大いに怒り、
「汝(いまし・月読尊のこと)は悪しき神なり。相見(あいみ)る
べくもあらじ」といい、天照大神は日中に、月読ノ尊は夜をつかさ
どるようになり、天照大神と月読ノ尊は別々に住むことになったと
いうことです(『古事記』、『日本書紀』神代上・第五段)。

 ところで、月夜見山の真南に風ッ張峠(標高1170m)があります。
『日本山名事典』では「かざはりとうげ」となっていますが、先
出の『奥多摩』によると「かざっぱり」が本当なのだそうです。

 この峠は地形の関係からか、吹き上げる風が強いのでその名が
あるという。これは、埼玉県飯能市付近の「サムサノ峠」とか、各
地の風の吹き上げする場所の呼び方と同じような名前だといいま
す。

 この峠は、かつては檜原村倉掛(くらかけ)集落から倉掛尾根を
経て、奥多摩町の奥多摩湖南岸の日指地区に向かう交通路だったと
いう。ここも奥多摩有料道路が通り、まさにこの場所が東京の有料
道路の最高地点になっているそうです。冬は交通が不能になるとい
う。秩父多摩国立公園。

▼月夜見山【データ】
★【所在地】
・東京都奥多摩町と檜原村との境。青梅線奥多摩駅の南東8キロ。
JR五日市線奥多摩駅からバス、藤倉停留所下車、歩いて3時間で
月夜見山。三等三角点(1447.0m)がある。

★【位置】
・三角点:北緯35度45分24.37秒、東経139度2分30.05秒

★【地図】
・旧2万5千分1地形図名:奥多摩湖

★【参考文献】
・『奥多摩』宮内敏雄(百水社)1992年(平成4)
・『角川日本地名大辞典13・東京都』北原進ほか(角川書店)1978
年(昭和53年)
・『神々の系図』川口謙二(東京美術)1981年(昭和56)
・『古事記』:新潮日本古典集成・27『古事記』校注・西宮一民(新
潮社版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・岩波文庫『日本書紀(一)』校注・坂本太郎ほか(岩波書店)19
95年(平成7)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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