山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼906号 奥多摩・本仁田山とごぜ岩

奥多摩の本仁田山(ほにたやま)は、青梅街道を荷物を積んだ駄馬
がよく通ったところから本荷駄山(ほにだやま)の名がついたとい
う。しかしニタはヌタ場のことだという。登山道でもよく見かける
イノシシなどのあのヌタ場のことです。西へ向かう尾根の平石山近
くのごぜ岩では、いまも地元の炭焼きに間違った道を教えられた瞽
女の悲しい三味線の音が聞こえるという。
(本文は下記にあります)

【本文】

東京の屋根といわれる奥多摩。JR青梅線奥多摩駅の北北東2キロ
のところに本仁田山(ほにたま・1224.5m)という山があります。
本荷駄山(ほにだやま)、本荷田山、高指山(たかゆびやま・棚沢
方面の呼び名)の異名もあるそうです。本仁田とは変わった名前で
す。

昔、この山の山腹を通る青梅街道を荷物を積んだ駄馬が盛んに往来
したことから、駄馬の通る山だから「本荷駄山」なのだそうです。
ところが『奥多摩』(宮内敏雄著)によれば、本仁田の「ニタ」は
「ヌタ場」のことだというのです。

ヌタ場とはイノシシやシカが繁殖期にほてった体を冷やしたり、ま
た飲むための水を溜めるために掘った湿地、登山道などでもよく見
かけるあのヌタ場なのだそうです。関西や九州ではニタというそう
です。この山の南西には目立つヌタ場が多くあるという。

本仁田山は、江戸幕府編纂の地誌(1810・文政11年)の『新編武
蔵風土記稿』(巻の116)多摩郡編之巻二十八三田領棚沢村ノ部に
も「亀甲山、御林山のツヅキニテ少シク西ニヨリテアリ、広是モ二
十六丁許ナリ」と記述されています。

ここでいう亀甲山は日原方面から見ると本当に豆の甲のように亀の
甲のように見えるということからきた名前だそうです。また西南方
面石尾根の六ツ石山から見ると崩壊したいくつもの筋を荒々しく目
立たせているそうです。

本仁田山にはこんな悲しい伝説があります。昔、一座のみんなに遅
れてしまったひとりの瞽女(ごぜ)が、鳩ノ巣から峰の集落(昔は
大根ノ山ノ神の分岐点から横道に入ったところに集落があった)へ
向かって登ってきました。

瞽女がちょうど大根ノ山ノ神の祠のあるところま来たとき、地元の
炭焼きが高指(たかさす・本仁田山のこと)から降りてきました。
瞽女は炭焼きに峰集落へ行く道を聞きました。炭焼きはついいたず
ら心を起こし、自分が降りてきた本仁田山の方向を教えました。

炭焼きは気になりながらも「あに、途中で気がついて戻ってくんべ
え」と自分にいい聞かせて山を降りていきました。瞽女は歩いても
歩いても峰の集落に着きません。変だと思いながらも本仁田山のま
わりを行ったり来たりするうち、山深く迷い込んでしまいました。

急な尾根道を転げ落ち、助けを呼びますがだれの耳にも届きません。
夜になり霧雨が雨に変わり一段と寒くなってきました。瞽女はヨロ
ヨロとしながら、烏帽子型をした岩のところで力尽きて、眠るよ
うに死んでしまったということです。

それが本仁田山の三角点から尾根道をちょっと北上、コブタカ山か
ら川苔山方面へ曲がるあたり、西に向かって平石尾根の平石山(1075
m)先の「ごぜ岩」だということです。いまでも雨の日には、岩か
げから怨みを込めたような三味線の音が、か細く聞こえてくるすそ
うです。

またこの岩は御前岩ともいい、将門の伝説もあるということです。
雲取山から東に派生する石尾根には七ツ石山、将門馬場、三ノ木
戸山など平将門伝説に関連した地名がならびます。御前岩もこの
一連の伝説に関係があるのでしょうか。

▼本仁田山【データ】
【所在地】
・東京都奥多摩町。JR青梅線奥多摩駅の北北東2キロ。JR青
梅線鳩ノ巣駅から歩いて2時間30分で本仁田山。三等三角点(122
4.5m)がある。地形図上には山名(本仁田山)と三角点の記号と
その標高のみ記載。

【地図】
・旧2万5千分1地形図名:武蔵日原(東京13号-4)、奥多摩湖(東
京14号-3)

【参考文献】
・『奥多摩』宮内敏雄(百水社)1992年(平成4)
・『おくたまの昔話』(第1集)(奥多摩民話の会)1990年(平成2)
・『新編武蔵風土記稿』巻之116(多摩郡之二十八)(棚沢村、小丹
波村、大丹波村、川井村、沢井村、二俣尾村、日向和田村):『大
日本地誌大系』蘆田伊人(あしだこれと)編輯(雄山閣)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)

ゆ-もぁイラスト・漫画家・
山と田園の画文ライター
【とよだ 時】

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