山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼892号 白山御前峰で発見・ゴゼンタチバナの花

登山道で小さな白い花を見つけます。何枚もの葉に囲まれ茎や葉の
わりに大型です。ゴゼンタチバナの花です。正確には白い花に見え
るのは4枚の総包片。「ゴゼン」は北陸の白山の御前峰で発見され
たからという。また「タチバナ」はカラタチバナのような赤い果実
をつけることからつけられた名前だそうです。
(本文は下記にあります)

▼892号 白山御前峰で発見・ゴゼンタチバナの花

【本文】
夏の太陽がギラギラ、肩に食い込むザック。ブナ林も抜け針葉樹林
帯に入りました。ふき出る汗、ふと登山道沿いに直径3センチくら
いの小さな白い花を見つけます。4枚の白い花は、まわりを何枚も
の葉に囲まれ、また茎や葉のわりに大型で目立ちます。ゴゼンタチ
バナの花です。正確には白い花に見えるのは4枚の白い総包片だそ
うです。

実際の花は総包片の真ん中にあり、小さくて目立ちません。この
花は高山帯のハイマツの下でも見かけます。ゴゼンタチバナの「ゴ
ゼン」は石川県と岐阜県の間にある白山の最高峰御前峰で発見され
たからだそうです。また「タチバナ」は、秋にヤブコウジ科のカラ
タチバナのような赤い果実をつけることからつけられた名前だとい
います。

アイヌ名では「チロンヌプ・フレプ」といい「キツネの赤い実」と
いう意味だそうです。果実はイヌエット(エスキモー)の人たちが
食料にするという。ゴゼンタチバナは高さ10センチほどの多年草。
茎は木質化して長い地下茎があり、地下茎が切れると新しい個体と
なるため、しばしば群生するのだそうです。

葉は菱形で、花の咲く株には6枚ありますが、花のつかない株では
葉は4枚です。花の咲く株に葉が6枚つくのは、2枚の対生する葉
のそれぞれの腋からさらに2枚ずつ葉をつけた短枝が出て、6枚の
輪生状に見えるのではないかといいます。

花の咲かない株では茎の先端の主軸に対生した2枚の葉とその腋か
ら出た葉との節の間が短くなって4枚に見えるわけです。葉の大き
さは、主軸対生する2枚は大きく、短枝につく4枚は小さい。6〜
7月、茎の先に4枚の白い花弁状の苞を上を向いてつけ、その中心
に細かな花が集まって咲き、秋に直径5〜8ミリのまるく赤い集合
果をつくります。果実は食べられるそうですが、私はまだ食べてい
ません。

ゴゼンタチバナは周北極分布型で、日本では亜高山帯に生え、北海
道と奈良県、中部地方以北、それに愛媛県の東赤石山にもわずかに
あるそうです。ゴゼンタチバナと同属のエゾノゴゼンタチバナとい
うのがあって、日本では北海道の根室、釧路地方にだけ見られると
いう。これは葉が輪生せず、数対の葉を対生しているそうです。花
が紫色を帯びるので、ムラサキゴゼンタチバナという名もあるとい
う。

数あるミズキ屬の中で、ゴゼンタチバナとエゾゴゼンタチバナの2
種だけが多年草の草本だといいます。これは木本性の祖先から進化
したと考えられる異例の種なのだそうです。要するにミズキ屬の中
でも特殊な存在なのですね。
・ミズキ科ゴゼンタチバナ属の常緑の多年草

▼【参考文献】
・「高山植物」(野外ハンドブック・8)小野幹雄ほか(山と渓谷社)
1985年(昭和60)
・『植物の世界4巻・41」号』(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1995
年(平成7)
・『世界の植物巻3・27号』(朝日新聞社)1976年(昭和51)
・『日本の野草』(山と渓谷社)1983年(昭和58)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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