山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼883号 夏の高原をいろどるヤナギラン

花が上品でまるでランのようなヤナギラン。その割りには山火事の
跡や、森林の伐採跡などに真っ先に入り込んで群生するという。ま
た、林道わきや、腐植土の肥えた場所などにも平気に生えてくる強
さを持っています。また、ヤナギランの花序は大形で、大量の蜜を
出し蜂蜜の蜜源植物にもなっています。
(本文は下記にあります)

【本文】

夏の高原、ヤナギランが群生して紅紫の花を咲かせています。ヤナ
ギランはヤナギソウともいい、漢字では「柳蘭」、「柳草」と書くそ
うです。葉がヤナギの葉に似ていて、花が上品でまるでランのよう
だからだという。

その割りには山火事の跡や、森林の伐採跡などに真っ先に入り込ん
で群生するという。そんなことからFierweed weedと呼ばれている
そうです。また、林道わきや、腐植土の肥えた場所などにも平気に
生えてきます。

ヤナギランは根茎を長くのばしてふえます。茎の高さは1〜1.5m。
ほとんど枝分かれせず直立しています。葉は多数互生して、細長い
披針形(ひしんけい)で長さ8〜15センチ。

葉柄はほとんどありません。茎に生えているなかほどの葉は大きく、
下の方の葉は花が咲くころ枯れてしまいます。先はとがっており、
縁(へり)には小さなギザギザがありますが目立ちません。葉の裏
面は粉白色を帯びています。

7〜8月、茎のてっぺんに総状花序(中心に1本の軸があり、そこ
から出た複数の枝がそれぞれ花になる)をつくり、紅紫色の花をた
くさん横向きに咲かせます。花はだんだん下から上へ咲き上がりま
す。

がく片4個、花弁4個、雄しべ8本、花柱1本。花弁は倒卵形(と
うらんけい)。雌しべや雄しべは下に曲がり、子房には白い毛を生
えています。また、ヤナギランの花序は大形で、大量の蜜を出すた
め蜂蜜の蜜源植物にもなっているそうです。

ヤナギランはアカバナ科アカバナ属の多年草だという。つまりアカ
バナの仲間です。一方、ヤナギランは、葉が互生するなどふつうの
アカバナとは明らかに違います。

また大きな総状花序を、茎の頂に直立することや、雌しべの柱頭が
4裂することなど特に異なる性質をもっていることもあり、アカバ
ナの仲間からヤナギラン属として区別する考えもあるそうですから
難しいものです。

さらにヤナギランは、8本の雄しべが雌しべより先に熟して、花粉
を散らします。そして雄しべがしおれるころ、垂れていた雌しべの
柱頭が成熟しはじめ、長い4本に分かれていかり形にそり返り、ほ
かの花の花粉を受けるという「わざ」をもっています。

この「ヤナギラン雄しべ先熟」については1793年にドイツの植物
学者スプレンゲルという人が、学会に報告しました。これが植物の
送粉に関するはじめての科学的研究なのだそうですからヤナギラン
も大したもの?です。

花が終わると刮ハができ、頂にある長い毛利用し風に乗って飛んで
いきます。葉が無毛で東北から北海道に分布する種をヤナギランと
いい、有毛で本州中部から東北にかけて分布するものをウスゲヤナ
ギランと区別することあるそうです。

ヤナギランは一名「客花」ともいい、この花のつぼみを見て、山小
屋や旅館が客を待つ準備をする地方もあるそうです。
・アカバナ科アカバナ属の多年草

▼【参考文献】
・『植物の世界4巻・043号』(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1995年
(平成7)
・『植物の世界12巻・142号』(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1997
年(平成9)
・『世界の植物巻3・28号』(朝日新聞社)1976年(昭和51)
・『日本の野草』(山と渓谷社)1983年(昭和58)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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