山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼867号 「高山植物・イワベンケイ」

【本文】

イワベンケイは、高い山の岩場の割れ目などに生える高山植物。
肉厚の葉に、淡い黄色い花を咲かせるベンケイソウ科イワベンケ
イ属の多年草です。登山道わきの岩にへばりつくように咲いてい
るのをよく見かけます。

牧野富太郎博士は、その名をイワベンケイソウ(別名イワキリン
ソウ)とし、ベンケイソウとはこの草は、切って何日もつり下げ
ておいてもしおれず、また土にさすとすぐについてしまう。その
強いことを弁慶にたとえたもの。またイワベンケイソウは岩の上
に生えるベンケイソウの意味だと解説しています。

この植物は日本では、北海道の海岸などと本州の高山に生えてい
て、本州では北アルプスや、南アルプスの標高2500m以上の山に
分布しているそうです。これを調査するのは大変で、本州の標高
2500m以上の山は156座もあって、毎年夏に10山ずつ登っても15
年はかかります。

それに挑んだのが、山好きだった緑川謙二というお人。標高2500
mより低い山にまで足をのばしてイワベンケイを探し歩いたといい
ます。その結果、この調査のほかに他の標本も含めて、現在本州に
は94地点にイワベンケイが確認されているそうです。

その分布は、北アルプスでは標高2500m以上の10の山々すべてで
確認。南アルプスも13の山すべてに分布していたそうです。しか
し、不思議なことに富士山と立山では見つからなかったといいま
す。

本州中部で生えていた標高が最も低い山は、戸隠連山の西岳の岩場
と、南アルプスの鋸岳の南西の沢だったそうです。両方とも標高
1700mだそうです。また、国内での分布の南限は、大台ヶ原(奈
良と三重県の境)だったそうです。ただ、1926年(昭和元)に植
物愛好家の玉置海三という人が採集したのが最後で、その後は見つ
かっていないといいます。絶滅してしまったのでしょうか。

イワベンケイは、地中に1〜2センチのゴボウのような根茎があ
るそうです。岩の割れ目や瓦礫地に生えるのに地下に根茎をつく
るのですからやはり強い。7〜8月ごろに根茎の先から高さ15〜3
0センチの花茎を出します。

葉っぱは白い粉をかぶったような緑色。ちょっと厚ぼったい感じ
で長さ1〜4センチほど。そんな葉っぱが互生する茎の先端に密
集した散形花序(植物用語:軸から同じ長さの柄が傘のほねのよ
うに出て花が咲く)の花を咲かせます。雌雄異株(しゆういしゅ)。

雄花に退化した雌しべがあって、雌花には花弁と雄しべがないと
いう。雌株・雄株とも茎は木化して、冬も枯れないそうです。かつ
てベーリング海峡を発見した時、ベーリングの探検隊は、乗組員の
多くが壊血病にかかりました。

しかし、難破して上陸したベーリング島にはイワベンケイがあって、
乗組員はそれを食べ、ビタミンCをおぎなうことができ、生命が救
われたという話も伝えられています。またイワベンケイは、地球
の最終氷河期の時、北極あたりの寒冷地から「移住」してきた亜
寒帯の遺存種だそうです。

▼【参考文献】
・『高山植物』(野外ハンドブック・8)小野幹雄ほか(山と渓谷社)
1985年(昭和60)
・『植物の世界5巻・56号』(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1995年
(平成7)
・『世界の植物巻4・46号』(朝日新聞社)1976年(昭和51)
・『日本大百科全書・2』(小学館)1985年(昭和60)
・『日本の野草』(山と渓谷社)1983年(昭和58)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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