山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼864号 「高山植物・タカネキンポウゲ」

【本文】

平地の野山に咲くキンポウゲ(金鳳花)という花があります。黄色
い花弁が日光を浴びてキラキラと光ってきれいです。その高山の草
地に生えるのがミヤマキンポウゲ(深山金鳳花)。雪が残る高山を
バックにあざやかな黄色の花がまぶしいほどに映えています(【ひ
とり画展】バックナンバー290号)。

その仲間にタカネキンポウゲ(高嶺金鳳花)という植物があります。
キンポウゲ科キンポウゲ属の多年草。これは北アルプス白馬岳高山
帯だけに生えるここ特産の高山植物です。

8月ごろの夏の白馬岳。岩混じりの湿った斜面、高さ10センチく
らいで、直径1.5センチほどの黄色の花がひとつ上を向いて咲いて
いるあれです。

がくは5個で、花弁は5枚で平らに開いています。花弁1枚1枚は、
卵を逆さにしたような形(倒卵形)になっています。根ぎわから出
る葉(根生葉)には柄(え)があり、幅の広い卵形(広卵形)で扇
形のまわりは、いくつか浅く裂けています。

また茎の中ほどに柄のない葉を1枚つけています。花は9月の下旬
まで見られるというから遅くまで咲くものですね。

植物研究者の門田裕一氏の一文(『植物の世界巻8・93号』朝日新
聞社)には「これに近縁な植物は、日本列島から遠く離れたシベリ
アのアルタイ山脈に分布するアルタイキンポウゲというのがある。
白馬岳のタカネキンポウゲが絶滅寸前にあるのに対して、アルタイ
キンポウゲはあちこちに大群落をつくっている。

白馬岳の同じ斜面にはクモマキンポウゲという高さ5センチにも満
たない小形の多年草が生育している。こちらは、いわゆる周北極植
物のひとつで、日本では白馬岳にしか見られないが、種としては北
半球の高緯度地方に広く分布する。

つまり、白馬岳の同じ場所に異なる系統の種が同居しているのであ
る。こうしたことが、日本のフロラ(植物相)の豊かさに深く関係
しているのだろう。ちなみに北アルプスにごくふつうに分布するミ
ヤマキンポウゲは、この斜面には生育しない」とあります。

要するに、それほど貴重な高山植物なのですね。ちなみにこのよう
に狭い地域特産の仲間に、南アルプス北岳とその周辺にだけ分布す
るキタダケキンポウゲ(北岳金鳳花・「レッド・データ・ブック」
では絶滅危惧種)、八ヶ岳だけにあるヤツガタケキンポウゲ(八ヶ
岳金鳳花)があるそうです。

こんな珍しい花を見てもふつうは「あ、キンポウゲだ」とか「なん
とかキンポウゲというのかな」くらいで終わってしまいますよね。
しょうがないなあ。
・キンポウゲ科キンポウゲ属の多年草。

▼【参考文献】
・『植物の世界巻8・93号』(朝日新聞社)1996年(平成8)
・『世界の植物巻6・63号』(朝日新聞社)1977年(昭和52)
・「世界の植物巻6・68号」(朝日新聞社)1977年(昭和52)
・『日本の野草』(山と渓谷社)1983年(昭和58)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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