山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼845号 「北アルプス・帽子をかぶったような烏帽子岳」

山頂に烏帽子のような岩塔がある烏帽子岳。江戸時代、信州側の木
こりの三吉が盗伐で加賀藩の役人に捕まり大騒ぎ。そのため、伐採
していた谷を三吉谷、小屋がけをしていた場所を三吉小屋場(いま
は烏帽子小屋)、烏帽子岳を三吉岳と呼んだ。
・富山県富山市と長野県大町市との境。
【本文】は下記にあります。

▼845号 「北アルプス・帽子をかぶったような烏帽子岳」

【本文】
各地に烏帽子岳(山)と呼ぶ山は多いですが、ここ北アルプスの烏
帽子岳はその中の最高峰の2628m。この山は裏銀座コース(槍ヶ
岳を目指す北側のコース)の玄関となる山。

烏帽子小屋から山頂への砂礫地帯には、高山植物のコマクサやイワ
ギキョウ、イワツメクサ、ミヤマキンバイなどが生えています。

北東側の平地には雪田が残ってたくさんの池塘になり「四十八池」
と呼ばれています。

烏帽子岳から北への南沢岳、不動岳へと連なる稜線上では砂礫地に
とくにコマクサが多い。

山名はこの山の山頂付近に烏帽子の形をした岩が塔のようにそそり
立ち、遠くから眺めると烏帽子をかぶったようなところからついた
ものだといいます。

長野県側の江戸中期の宝永3年(1706)東田沢村差出帳(上田藩村
明細帳)という文書には「北者組中入会之草苅場、奥山ハ水のとう
山」と記されていて、そのころは「水のとう山」と呼ばれていたら
しいという。

一方越中側では、江戸後期の享和3年(1803)の奥山御境目見通山
成川成絵図に折岳(おりだけ)とあり、その後の新川郡絵図類はよ
く出てくるという。

また「三州地理誌稿」に「折嶽ハ形壁峭、故名」とあり、折岳の意
味は折って立てたような鋭峻な岩峰に由来しているそうです。

この奥山は樹木伐採禁止と加賀藩がお達しを出していました。とこ
ろが江戸後期の安永4年(1775)、信州の木こりの三吉という人が、
南東方にある伐採禁止の水晶岳や赤牛岳周辺で、ひそかに木を切っ
ている時加賀藩の役人に捕まり、大騒ぎになったことありました。

そんなことから三吉が伐採していた谷を三吉谷(東沢支谷)、小屋
がけをしていた場所を三吉小屋場(いまは烏帽子小屋が建ってい
る)、烏帽子岳を三吉岳、そして木を盗みには行ったルートを三吉
道と呼び、また赤牛岳は赤牛三吉などと呼ぶようになったそうです。

この山も雨乞いの山。江戸中期の明和7年(1770)に大干ばつのた
めここでもほかの山とともに千駄焼きが行われたという。

その後、文政10年(1827)、文久3年(1863)などに9回もの烏帽
子岳雨乞いが行われたというから効果があったのでしょうか。

ところで烏帽子岳は1897年(明治30)代はまだ裸山で、秋草のこ
ろは中尾根の背からはどこまでも山なみを一望できたといいます。

明治37、8年になり日露戦争が終わると、殖産興業、富国強兵の政
策が唱えられはじめこの山も傾斜面に植林されたのだそうです。

ちなみに烏帽子小屋は1924年(大正13)に、富山県早月尾根の登
山口・島々に近い稲核(いねこき)地区の猟師だった上条文一によ
って建てられたという。

その後、小屋は息子の鉄一から孫の文吾に受け継がれているそうで
す。また長野県側烏帽子岳に登るブナ立尾根は、その急坂から甲斐
駒ヶ岳への黒戸尾根、谷川岳への西黒尾根とともに「三大急登」に、
笠ヶ岳の笠新道、燕岳の合戦尾根とともに「北アルプスの三大急登」
のひとつにされているそうです。

▼烏帽子岳【データ】
【山名】・烏帽子岳(烏帽子の形から)・水のとう山・折岳(折っ
て立てたような鋭峻な岩峰に由来)・三吉岳(三吉捕縛事件)

【名山】
・「日本二百名山」(深田クラブ選定):第56番に選定(日本百名山
以外に100山を加えたもの・日本三百名山にも含まれる)
・「信州百名山」(清水栄一選定):第37番に選定

【所在地】
・富山県富山市旧大山町各地区名(旧上新川郡大山町)と長野県大
町市との境。JR大糸線信濃大町駅の南西19キロ。JR大糸線信
濃大町駅からタクシー高瀬ダム下車さらに歩いて6時間30分で烏
帽子岳。写真測量による標高点(2628m)がある。地形図に山名
と標高点の標高の記載あり。付近に何も記載なし

【位置】
・【標高点】緯度経度:北緯36度28分46.19秒、東経137度39分
03.3秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「烏帽子岳(高山)」。

【参考文献】
・「黒部の昔話」(立山黒部貫光)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「角川日本地名大辞典16・富山県」坂井誠一ほか編(角川書店)
1979年(昭和54)
・「角川日本地名大辞典20・長野」(角川書店)1991年(平成3)
・「富山県山名録」橋本廣ほか(桂書房)2001年(平成13)
・「日本歴史地名大系16・富山県の地名」(平凡社)1994年(平成
6)
・「日本歴史地名大系20・長野県の地名」(平凡社)1979年(昭和54)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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