とよだ 時・山のゆ-もぁ-と(イラスト)
山旅漫歩゚
【ひとり画通信】

▼837号 「高山植物シャクナゲ(キバナシャクナゲ)」

【概略】
稜線のくぼみや岩かげなどにハイマツのように地面を覆って群落し
ているキバナシャクナゲ。この高山の過酷な環境の中でも、冬は雪
の下に閉ざされ夏は濃い霧に保護されて、シャクナゲにとってはす
み心地がよいらしく、低地で栽培しようとしても難しく開花などし
ないという。
・ツツジ科ツツジ屬の常緑低木

▼837号 「高山植物シャクナゲ(キバナシャクナゲ)」

【本文】
シャクナゲとは、ツツジ科ツツジ屬のうちシャクナゲ亜属の総称を
いうそうですが、ホンシャクナゲやアズマシャクナゲをただシャク
ナゲということもあるという。

ただ「牧野新日本植物図鑑」では、ツクシシャクナゲをいうとあり
ます。しかしホンシャクナゲはツクシシャクナゲの変種だというか
らそう目くじらを立てることはなさそうです。

日本には6種のシャクナゲが分布しているそうです。

高山でおなじみのキバナシャクナゲとハクサンシャクナゲの北方系
の2種と、南方系の4種(ヤクシマシャクナゲ、ツクシシャクナゲ、
アズマシャクナゲ、エンシュウシャクナゲ)の種群に区別できるの
だそうです。

これらの種類は、それぞれに適した環境と分布域をもっていて、2
種類が同じ場所に生えていることはめったにないという。それぞれ
の種類がそれぞれにお互いにすみ分けているらしいというのです。

シャクナゲ類の葉は革質で厚く、表面は深い緑色で光沢があります
が、裏面は褐色で淡白色の密毛があり葉が捲いています。

これは冬期の温度の低下に従って水分が氷結して細胞が脱水作用を
うけて収縮するからなのだそうです。

つまり、シャクナゲのような大きな常緑葉は、厳冬期になると葉を
内巻きにして垂れ下がり、夜の強い冷え込みに耐え、また昼間の日
の光にあたって葉の温度があがったり、水分蒸発を防いでいるとい
うのです。

このような性質は冬の寒さが厳しい地方ほどはっきりあらわれてい
るそうです。

いろいろなシャクナゲの中で日本で一番高い山に生えているのはキ
バナシャクナゲという種類です。稜線を歩いていると、わきのくぼ
みや岩かげなどにハイマツのように地面をおおって群落しているの
を見かけます。

この高山の過酷な環境の中でもシャクナゲにとっては、冬は雪の下
に閉ざされ夏は濃い霧に保護されているという、これがすみ心地が
よいらしく、栽培するのは難しく本州の低地ではほとんど開花しな
いそうです。

キバナシャクナゲは茎は横に這い、高さ20〜50センチ。柄のある
葉は互生して枝の先の方にたくさん密生しています。葉の形は倒卵
状長楕円形で長さ3〜6センチ。

6月下旬から7月中旬が花の最盛期。数個横向きに咲き、径2.5〜
3.5センチ。雄しべ10本、雌しべ1本。「黄花」といっても鮮黄色
ではなく淡い黄色をしています。

またハクサンシャクナゲも時々ハイマツなどにまじって高山帯で見
かけます。高山帯では丈が低いですが、普通にある亜高山帯の針葉
樹林のなかで育つと高さは2〜3mになるという。

富士山の五合目の奥庭あたりでも大きくなったハクサンシャクナゲ
を見かけます。花冠は基部が黄みを帯び、緑黄色の斑点があります。

シャクナゲの記録では「石南花草」の文字で平安時代の『新撰字鏡
(しんせんじきょう)』(901年)に、また木偏に南の「石楠花草」
の文字が、同じ平安時代の『倭名類聚鈔』(931〜938)にあります
が、両方とも和名は「止比良乃木(とぴらのき)」とあり、いまで
いうトベラ科のトベラを指しているものらしいのでという。

シャクナゲの名は室町時代から使われはじめたようで『下学集・か
がくしゅう』(1444年)に記録があるそうです。

かつて愛媛県の石鎚山では、ハクサンシャクナゲを行者が手折って
里に持ち帰り、田んぼの畦にさして豊作を祈る風習があったそうで
す。

ところでシャクナゲにはこんな伝説もあります。

備前(佐賀県)と筑前(福岡県)の境にある背振山(せぶりさん・1055
m)に、「ベンジャア」さんという、それはきれいな姫神がいたと
いう。

姫神は花、それもとりわけシャクナゲが大変好きでした。しかしこ
の山にはシャクナゲが生えていません。

がっかりしていると豊前(福岡県)の英彦山(ひこさん・1200m)
にたくさん咲いているということをうわさで聞きました。

そこでこっそり天空馬という空を飛ぶ馬に乗って英彦山行き、シャ
クナゲを5,6株盗みました。それを知った英彦山の大天狗は「待
てえッ」と空を飛んで追いかけてきました。

姫神と天空馬は必死に逃げましたがとうとう東小河内(いまの福岡
市那珂町)のあたりで追いつかれました。

姫神はシャクナゲを放り投げて背振山に逃げ帰りました。放り投げ
たシャクナゲは東小河内で美しく咲くようになりました。

しかし姫神はどうしてもあきらめられません。どうしてもこの背振
山にあのきれいな花を咲かせたい。そこで姫神はもう一度盗みに行
きました。

そしてまた英彦山のシャクナゲを5、6株つかむや逃げ出しました
が、相手も大天狗です。たちまち見つかって追いかけられます。

天空馬も必死に逃げましたが山の下の鬼が鼻というところで追いつ
かれそうになり、またシャクナゲを投げ捨てて逃げ帰ったという。

そのため、いまでも背振山の頂上にはシャクナゲがなく、山すその
東小河内と鬼が鼻にだけ美しく咲いているのだそうです。

また天狗に追われて逃げる時、天空馬があわててあまり尻を跳ね上
げ背中を振り振り走ったのでその山を背振山と呼ぶようになったと
いうことです。

ちなみに大天狗の名は英彦山豊前坊という日本八天狗に入る大物天
狗です。それにしてはみみっちくないか?

石楠花を隠さう雲の急にして(阿波野青畝)
・ツツジ科ツツジ屬の常緑低木

【参考文献】
・「世界の植物2巻・22号」(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1976年
(昭和51)
・「植物の世界巻5・53号」(朝日新聞社)1995年(平成7)
・「植物の世界巻6・65号」(朝日新聞社)1995年(平成7)
・「植物の世界巻13・11号」(朝日新聞社)1994年(平成6)
・「日本大歳時記・夏」水原秋櫻子ほか監修(講談社)1989年(昭
和64・平成1)
・「日本の樹木」山溪カラー名鑑1988年(昭和63)
・「日本の民話2・自然の精霊」(角川書店)1974年(昭和49)
・「牧野新日本植物図鑑」牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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