山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼835号 「吾妻小富士の雪形」

【概略】
昔、干ばつの時雨乞いをしていると空を舞うトビが飼っているウ
サギをさらって飛び去った。行き先を見ると吾妻小富士に「ウサ
ギ」の雪形があらわれていた。家に帰るとなんと岩室から水が湧
き出している。早速田んぼに引いて種をまくことができた。お陰
で豊作、村は裕福になった。そこを兎田という。
・福島県福島市

▼835号 「吾妻小富士の雪形」

【本文】
東吾妻連峰をつらぬく磐梯吾妻スカイラインの中継地浄土平は、
駐車場、レストハウス、移動郵便局まであり観光客で賑わってい
ます。ここは旧破裂口の底にできた平坦地で、明治中期まで湖沼
をたたえていたという。

そのすぐ東にある吾妻小富士は本物の富士山のミニチュア版。標
高1707m。山頂にはすり鉢のような直径約600m、深さ約120mの
火口があり、それを一周する道があって、子どもたちまでがお鉢
めぐりをしています。

この火口には五葉松や灌木が所々に生えていて、雨が降ってたま
ってできる火口湖はありません。たぶん底にある火山の岩の屑が
雨水を通してしまうのだろうといわれています。そんなところも
富士山にそっくりです。

4月から6月ころ、山の北東側山腹に白いウサギの形をした残雪
の雪形がでるという。これを「種まきウサギ」とか「雪ウサギ」
といって、ふもとの人は昔から農作業をはじめる目安にしてきた
といいます。またこれが見られるようになると晩霜の心配はしな
くともよいといわれているという。

「種まきウサギ」の雪形には次のような伝説があります。その昔、
田沢村(いまの福島市蓬莱町田沢)の兎田(うさぎでん)という
ところに、身寄りのない子どもがいたという。彼は山奥の小さな
田や畑を耕し、そこで拾ったウサギの親子を飼って暮らしていた
という。

そのころ、このあたりは田植えもできないような日照りが続いて
いました。困った村人は吾妻権現がまつられている西山の雷沼(い
まは東屋沼)とつながっているという、田沢地区の貝沼(いまは皆
沼)で雨乞いをしました。しかし効き目がなく日照りはつづきまし
た。

村人はこんどは直接雷沼に出かけることになりました。山伏を先
達に雨笠をかぶり、蓑を着て吾妻山に大勢で登っていき雨乞いを
しましたがやはり同じことでした。

兎田の子どもも裏山に登り雨が降るよう祈りました。空を見ると
2羽のトビが飛んでいます。すると突然谷間へ急下降すると、か
わいがっていた親子ウサギをわしづかみにして舞い上がりました。

トビが飛んでいった方を見ると吾妻小富士にウサギの雪形がはっ
きりとあらわれていました。ウサギは吾妻山の山神になっていた
のです。兎田の子どもは吾妻小富士の神に祈りながら山を下りて
みるとナント、家の前の岩屋から貴重な水がコンコンと湧いてい
るではありませんか。

早速村人とともに田んぼに水を引いて種をまき、秋には村中が豊
作になったという。それからは村人は雪形を「種まきウサギ」と
呼んだという。またその田んぼを兎田(うさぎでん)と呼ぶよう
になりその子は成長すると長者になったという。

兎田はいま、東北本線の南福島駅と金谷川駅の中間にあります。
ちなみに種まきウサギの雪形は、耳の長さが約85m、耳上〜顔下
までが約252m、顔〜尻までが約341m(1985年春の調査)だとい
うからかなり大きいものですね。

▼【データ】
山名:吾妻小富士(あづまこふじ)

【異名・由来】
・異名:擂鉢山(すりばちやま)

【所在地】
・福島県福島市。東北本線福島駅の西17キロ。JR福島駅からバス
浄土平下車、10分で吾妻小富士。写真測量による標高点(1707m)
がある。地形図に山名と標高点と標高点の標高の記載あり。

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・【吾妻小富士標高点】緯度経度:北緯37度43分19.63秒、東経140
度15分48.88秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「土湯温泉(福島)」

・【参考文献】
「角川日本地名大辞典7・福島県」小林清治ほか編(角川書店)1
981年(昭和56)「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005
年(平成17)
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
「日本歴史地名大系7・福島県の地名」(平凡社)1993年(平成5)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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