山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼825号 「南アルプス・荒川三山」

【前文】
荒川岳は、長野県側から前岳、中岳、それに東岳(悪沢岳)の総称。
最高峰の東岳は本邦第6位。荒川岳の名は西麓から前岳に突き上げ
る荒川に由来しているらしい。中岳にいまある木製の祠の残骸は明
治19年に堀本丈吉が建てた祠の何代目かにちなんだものか。
・静岡市と長野県大鹿村との境

▼825号 「南アルプス・荒川三山」

【本文】
荒川岳(荒川三山)は、西側(長野県側)から前岳(3068m)、中
岳(3083m)、それに東岳(悪沢岳・3141m)と、いずれも3000
mを越す三山の総称。とくに最高峰の東岳は本邦第6位の高峰。荒
川岳の名は西麓の長野県下伊那郡大鹿村を流れる小渋川の支流で大
崩壊地から前岳に突き上げる荒川に由来しているらしい。

この三山は長野県、静岡県、それに県内に入っていないものの山梨
県でも呼び方が違っていたという。

長野県側では西から荒川岳・中岳・連岳、静岡県側では同じく西か
ら荒川岳・奥西河内岳・地蔵ヶ岳、山梨県側では奥西河内岳・魚無
河内岳・悪沢岳と呼んでいたというのですから紛らわしいかぎりで
す。

この荒川岳のなかの一番東に位置するその名も東岳は悪沢岳、静岡
県側や山梨県での呼び方です。1909年(明治42)9月、甲州の猟
師で案内人の大村晃平が「此の山より出づる溪流の西俣に注ぐもの
甚険悪なれば之を悪沢と呼び、此の山すなわち悪沢岳と云ふなり」
(「駿州田代山奥横断記」荻野音松)とあるそうです。

静岡県側では井川地区の田代集落の猟師たちは遠くに見える山を
「地蔵ヶ岳」と呼んでいたいう。また悪沢岳ともいっていたという。
長野県側では敬神講の先達、堀本丈吉が長野県側から広河原を経て
県境稜線に登り、荒川岳の東にこの山があるところから「東岳」と
呼んだのが最初とか。

国土地理院の地図で、前岳、中岳、東岳と表記されてから次第に呼
び方も定着してきたのだそうです。この山の開山は1886年(明治19)、
山梨県南アルプス市(旧中巨摩郡芦安村)の名取直江という人で、
前岳と東岳に登ったという。

また同じ年に長野県下伊那郡豊丘村の堀本丈吉という人も敬神講先
達として中岳と東岳に登ったといいます。さらに山の西麓の長野県
豊岡村の堀本丈吉という人は、それ以前から三峰講社を結成し、何
度か講社員登拝の案内をしていたとも伝えます。

昔は東岳(悪沢岳)山頂に三峰神をまつってあったという記録もあ
ります。昔は荒川、鍋状(悪沢岳?)、赤石岳を含めて三ッ峠(三
峰)といっていたという(「日本百名山」)。

その後、1909年(明治42)、小島烏水らがここに登ってみると白木
造りの祠と荒川大明神の木札があったという。この大明神か三峰神
か、はたまた山名の地蔵岳にちなむのか、1984年(昭和59)にこ
われた木祠がひとつ転がっているのを確認してあります。

2009年(平成21)8月15日に訪れたときも標注に向かって右側の岩
陰に木製の祠とおぼしき残骸が重ねるように置いてありました。古
い残骸には書かれた文字のようなのも読みとれず、途中からあとに
なり先になり歩いてきた登山者の方に話しかけても生返事をするば
かりでした。

▼【データ】
山名:荒川三山中岳(なかだけ)(百名山は悪沢岳)

・【異名・由来】
異名:この三山は長野・山梨・静岡県により呼称が異なる。山梨県
側では西から奥西河内岳・魚無河内岳・悪沢岳(角川静岡県)。長
野県側では西から荒川岳・中岳・連岳(角川静岡県)。長野県側で
は西から前岳・中岳・東岳(信州山岳百科)静岡県側では西から荒
川岳・奥西河内岳・地蔵岳(角川静岡県)。静岡県側では西から荒
川岳・奥西河内岳・悪沢岳(信州山岳百科)

・【所在地】
静岡県静岡市と長野県下伊那郡大鹿村との境。大井川鉄道井川駅から
バス、畑薙第一ダムから送迎バス、椹島から歩いて10時間で荒川三山
中岳。三等三角点(3083.2m)と中岳避難小屋がある。地形図に山
名と三角点の標高記載あり。付近に何も記載なし

・【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【荒川三山中岳三等三角点】三角点:【緯度経度】北緯35度29分
47.74秒、東経138度10分01.29秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「赤石岳(甲府)」or「塩見岳(甲府)」(2図
葉名と重なる)。5万分の1地形図「甲府−赤石岳」

・【参考文献】
「角川日本地名大辞典20・長野県」市川健夫ほか編(角川書店)1990
年(平成2)
「角川日本地名大辞典22・静岡県」小和田哲男ほか編(角川書店)
1982年(昭和57)
「信州山岳百科・2」(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

山旅イラスト【ひとり画展通信】題名一覧へ戻る
………………………………………………………………………………………………