山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼805号 「西丹沢・いい湯だな♪湯船山」

【前文】
山名は南麓の湯船集落から。集落名は昔ここから朽ちた湯船が発見
されたため。かつては湯量も豊富な温泉地だったが、江戸時代中期
の宝永4年(1707)の富士山宝永山の大噴火で湯量も減りいまでは
湯船温泉「あさかえ湯」だけが残る。
・神奈川県山北町と静岡県小山町の境

▼805号 「西丹沢・いい湯だな♪湯船山」

【本文】
西丹沢・不老山から西に、山中湖・三国山方面へ延びる尾根上に湯
船山という山があります。いい湯だな♪ゆったりと、なんとなくい
い気持ちになりそうな山の名前です。

それもそのはず、南麓の静岡県駿東郡小山町湯船集落の名前からつ
いたものといいます。古くは「湯船官林の頭」といったそうで、北
側の神奈川県山北町水ノ木方面では三日月山といっていたそうで
す。

いまの三日月山はこの山の南にある丸山をさしています。三日月山
とはいい名前ですね。

湯船山の名の元の湯船集落は、その昔ボロボロに朽ちた湯ぶねが発
見されたので「湯船」の集落名になったという。

ここはかつては湯量も豊富な温泉地でしたが、江戸時代中期の宝永
4年(1707)の11月、富士山が大噴火。宝永山が出現してからは
湯量も減り泉温も下がってしまったという。現在では1軒の湯船温
泉「あさかえ湯」があるだけだという。

足柄山の金太郎は、この温泉の東の中島地区の生まれだとされてい
ます。母の山姥がよくここに湯治に来たという。足柄山の金太郎は
この温泉の東、中島の生まれという。母の山姥がよくここに湯治に
来て金太郎を生んだと伝えられ、いま金太郎公園があり、酒田金時
をまつった金時神社があります。

山姥は夕方来て朝、家に帰ったというので、あさかえ湯と呼ばれ、
この温泉の源泉地になっています。また、近隣の村人たちがこの湯
宿に泊まり、翌朝に帰ったからとの説もあります。

ここには「湯船字あさかえ」と記した古文書もあるといういうから
古くからの土地に違いありません。ちなみに金時神社拝殿のあると
ころは、坂田金時の子孫の家があったところだそうです(『駿河記』)。

また金太郎を産んだ山姥の名は八重桐といい、ここで育てられ足柄
峠を通りかかった源頼光に見出されて家来になったとされています
(小山町役場商工観光課)。

ある年の2月、雪の不老山から湯船山経由、三国山、菰釣山を目指
しました。ことしは雪が深い。途中急坂のデブリなどでラッセルに
手間取ります。湯船山手前で日も暮れかかりました。場所を選んで
テント泊。

次の日は南風が吹いています。湯船山あたりからやたらと暖かく、
雪が溶けだし登山道はグチャグチャです。おまけに雨足が強くなり
まるで服を着たまま温泉に入っているようです。

これ、春一番じゃないのか?暖かい風と大雨、みるみる雪は溶けだ
し、大きなブナの木は雨水を集めてまるで滝のようです。これはた
まりません。明神峠から逃げ下りたことがありました。あの時はま
さに湯船山でありました。

▼【データ】
山名:湯船山(ゆぶねやま)

【異名・由来】
・由来:南麓の湯船の集落で、昔、朽ちた湯ぶねが発見されて湯船集
落の地名が生まれ、その集落名にちなむ。

【所在地】
・神奈川県足柄上郡山北町と静岡県駿東郡小山町の境。御殿場線駿河
小山駅の北西6キロ。御殿場線駿河小山駅から歩いて4時間10分で
湯船山。二等三角点(1041.0m)がある。付近に何もなし。地形図
上には山名なし、三角点の記号とその標高のみ記載。付近に何も記
載なし。

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・【湯船山二等三角点】緯度経度:北緯35度24分5.18秒、東経138度5
7分26.85秒

【地図】
・旧2万5千分の1地形図「駿河小山(甲府)」。5万分の1地形図「甲
府−山中湖」

【参考文献】
・【静岡県駿東郡小山町広報】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『角川日本地名大辞典22・静岡県』小和田哲男ほか編(角川書店)
1982年(昭和57)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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