山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼788号 「山形県・鳥海山鶴間池と黒百合姫」

【概略】
美しき小百合姫。父の無念を晴らすべく池の竜神に願をかけた。翌
年希望通り山百合は黒百合になって咲いた。さては本願成就疑いな
し。姫たちは宿敵仁賀保の城にせまった。すると戦わずして降伏と
両手をつく当家の嫡男。あの春の朧の一夜に契った、あげ羽の蝶の
君だった。
・山形酒田市

▼788号 「山形県・鳥海山鶴間池と黒百合姫」

【本文】
東北の名山して知られる鳥海山南面にある鶴間池という神秘な池に
伝わる話です。世は鎌倉時代、奥州平泉・藤原秀衡が義経ともども
鎌倉の頼朝に滅ぼされました。

秀衡の妹・万徳御前は鳥海山に登り鶴間池のほとりに女別当の宮を
しつらえ、池の主の竜王のお使わしめ(お使い)になったという。

時は移り室町時代、万徳御前の末裔に美しき小百合姫がいました。
姫の父矢島満安は同族の讒訴により自刃。成長した小百合姫はます
ます艶やかになり、若者の間でも評判の美しさ。

そんななか、姫のもとに届いた一枚の色紙。「夏草の茂きがなかに
ひともとの姫百合の香りぞゆかしかりける」(あげ羽の蝶)とあり
ました。そんなこんなで二人は、吹く春風も和やかに露も情と結ば
れる仲になったのでありました。

それから間もなく姫は身の上を知らされ、父祖の無念を晴らすさん
と決心。鶴間池の宮にこもって33人の行者と33人の巫女を相手に武
芸、手裏剣の術を一心不乱に修行します。

しかし「あげ羽の蝶」との仮寝の夢の実を結ばせて懐妊していたの
です。ああ。しかし、姫は泣いても悔いても詮ないことと悟り、竜
神の御宝前に身を投げかけて「この本望遂げべくんば、鶴間池に咲
く山百合の花を黒染めの色に染め給え」と祈りました。

翌年、姫が玉のような男児を出産。同時になんと、鶴間池の百合が
みな黒百合になって咲きはじめていたのです。さては本願成就疑い
なし。

巫女・行者ともども勇みに勇んで滝沢城を落とし、宿敵仁賀保の城
にせまり、二の丸の軍勢を討ち取りました。

すると本丸からあらわれた老臣二人。「しばし待たれよ。当主は先
月病死。嫡男は家督を継ぐひまもない。降伏して城を明け渡したい」
間もなくしおしおあらわれた当家の嫡男。姫の前に両手をついてい
ます。

あっ。この嫡男こそあのあげ羽の蝶の君だったのです。それからと
いうもの小百合姫は山里の庵に住みもっぱら法華経の読経にいそ
しみ世を終えたということです。人は小百合姫を「黒百合姫」と呼び、
鶴間池にはいまも黒い花が咲いているというのです。

しかし、クロユリは月山以外、このあたりには見あたらないという。
もちろん鳥海山にクロユリはなく、まして標高1000mの鶴間池にあ
るはずがないというから不思議な話です。

▼鶴間池【データ】
池名:つるまいけ

★【所在地】
山形県酒田市旧八幡町地区(旧山形県飽海郡八幡町)。JR秋田新
幹線酒田駅からバスで観音寺からバスで湯ノ台、2時間40分で鶴
間池。地形図に池名(鶴間池)と南湖畔に写真測量による標高点(8
15m)の標高のみ記載。付近に何も記載なし。

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【鶴間ヶ池】緯度経度:北緯39度03分40.11秒、東経140度03分19.9
6秒

★【地図】
2万5千分の1地形図「湯ノ台(新庄)」

・★参考】
「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
「続・植物と神話」近藤米吉編著(雪華社)1976年(昭和51)
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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