山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼760号 「奥秩父金峰山の山男」

【概略】
その昔金峰山に人間の3倍もの大きさの山男が出たという。江戸時
代の紀行本「遠山奇談」に、ある時盗賊たちがこの山に隠れ住んで
いたが山男にさらわれたという。残った3人が麓に逃げてきてつか
まったこともあり、この山に登るのはやめたとの記載。
・山梨県甲府市と長野県川上村との境

▼760号 「奥秩父金峰山の山男」

【本文】
奥秩父の山梨県と長野県境にある金峰山(きんぷさん・標高2599
m)。その頂上には五丈岩と呼ばれる大岩があります。

この岩は高さが18mもあり、遠くからでもよく目立ちます。その形
がいかにも大黒さまに似ているというので、かつては御像石とも呼
ばれていたそうです。

金峰山は昔の農耕の神(雨乞い)の山として、ふもとの村人の信仰
が厚かったという。戦国時代には金峰山参りをするために大勢の村
人が訪れ、北側の長野県南佐久郡川上村川端下(かわはけ)集落
にはお寺がたくさんあったといいます。

その山に、大きな山男が出るという伝説があります。江戸時代の紀
行本「遠山奇談」(とおやまきだん・華誘居士著)に、「金峰山には
山夫(やまおとこ)というものがいるといわれる。山夫は人間の3
倍もの大きさがあり、乱れ髪が腰までのびている。

若いのは髪の毛が赤黒く、白けて艶がないのは歳のとったものらし
い。木の葉をつなげて身にまとい、体中が毛だらけで恐ろしい。時
々小動物を捕まえて喰うらしい。

人を見るとこだまのような声で呼ぶという。おゝいと一声呼ぶ時は
大丈夫だが、おゝい、おゝいと二声三声せわしく呼ぶ時は人をさら
いに来るので杣人もあわてて山から逃げ下るという。

ある時他国から盗賊たちが逃げてきて金峰山中に隠れてすんでいた
が、せわしく呼ぶ山夫に2人がつかまって連れて行かれた。残った
3人が肝を冷やし逃げてきたので杣人がみんなで盗賊を囲んで取り
押さえた。

盗賊は役人に引き渡されそのまま江戸へ送られたという」。そんな
こともあった山だから(金峰山に行こうと思っていたが)「必此山
へは行べからずと、おしとゞめける故、やめけり」とあります。

昔は山には得体の知れない何かがいたのでしょうか。皆さんはどう
思いますか。ちなみに「遠山奇談」は、京都の天明8年(1788)の
大火で炎上した東本願寺の再建のため、浜松の齢松寺の僧侶が遠山
に材木を探し求め伐り出した時、いろいろな不思議なことにあった
ことを記したもの(浄林坊辨惠著)だそうです。

▼金峰山【データ】
山名:きんぷさん・きんぷぜん・きんぷうさん・きんぽうざん・き
んぷざん

★【異名・由来】幾日峰(いくひのみね)

★【所在地】
【川上駅から】:
・山梨県甲府市と長野県南佐久郡川上村(合併せず)との境。JR中
央本線韮崎駅の北東24キロ。JR小海線信濃川上駅からバス終点川
端下下車、4時間30分で金峰山(きんぷさん)。五丈岩と三等三角
点(2595.03m)と標高点(2599m)、金桜神社の山宮(本宮)跡が
ある。地形図に山名と三角点の標高と標高点の標高の記載あり。三
角点より北西方向380mに金峰山小屋がある。

★【名山】
「日本百名山」(深田久弥選定):第68番選定(日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる)
「新日本百名山」(岩崎元郎選定):第47番選定
「山梨百名山」(山梨県選定):第7番選定
「信州百名山」(清水栄一選定):第48 番選定
「花の百名山」(田中澄江選定・1981年):第51番選定

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【金峰山標高点】緯度経度:北緯35度52分17.81秒、東経138度37分
31.69秒

・三等三角点:北緯35度52分17.4092秒、東経138度37分31.1284秒

★【地図】
2万5千分の1地形図「金峰山(甲府)」or「瑞牆山(甲府)」(2図
葉名と重なる)。5万分の1地形図「甲府−金峰山」

★【参考】
「遠山奇談」後篇「巻之三」第十九章 金峰山やま男の事:「日本庶
民生活史料集成・第16巻」編集委員代表・谷川健一(三一書房)19
89年(平成元)所収
「日本歴史地名大系20・長野県の地名」(平凡社)1979年(昭和54)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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