山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

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▼752号 「長野・新潟県境は竜体の山」

【概略】
長野県から新潟県へほぼ南北に連なる山々は古くから竜の体に例え
られています。頭は長野県の戸隠山で、胴は妙高山、尾は火打山。
これは戸隠神社の創立にからんだ九頭竜権現からきているといいま
す。富山県には剱岳はこの竜の尾で七巻き半巻かれているという伝
説があります。

▼752号 「長野・新潟県境は竜体の山」

【本文】
長野県から新潟県へと、ほぼ南北に戸隠山・黒姫山・妙高山・火打
山が連なっています。

このあたりの山々は古くから竜の体に例えられているという。竜の
頭に当たるのが南方にある戸隠山。胴は妙高山だといい、シッポは
妙高の西側の火打山(能生白山)だという。

これは戸隠山の戸隠神社の起源が九頭竜信仰によることからきてお
り、妙高の頂上付近には八大竜王の伝説のある興善寺池があり、戸
隠信仰と関連しているといいます。

嘉祥2(849)年というから平安時代の前の方、ひとりの学問行者
が飯縄山から西にそびえる大岳(戸隠山)に向かい7日間祈ったと
いう。

そして独鈷(どっこ・行者の持つ道具のひとつ)を天に投げ、落ち
たところに行ってみるとそこは戸隠山の1峰である九頭竜山の九頭
竜社の岩屋の前でした。

行者が神社の前で法華経を読んでいると、生臭い風が吹いてきて「九
頭一尾」の鬼が現れたという。

鬼は、「私はこの寺の前の別当だが貧欲のあまりこんな姿にされて
しまった。ここでありがたいお経を読む人がいるとそれを聞きに来
るのだが、害心がないのにみんな私の毒気に当たって死んでしまう。
当山はいままで40数回も破壊転倒するしまつ。私は今度こそ、あな
たのお経を聞けて成仏できるでしょう」という。

そこで学門行者はこの鬼を岩屋に封じ込め、大岩で隠しその前に戸
隠寺を建て、手力雄命の本地仏である聖観世音菩薩を安置したとい
う……。(「山岳宗教史研究叢書・16」)。その龍を岩の戸で岩窟に封
じ込めたので、それよりこの地を「戸隠」と呼ばれるようになった
とも伝えています。

この龍は長野市(旧戸隠村)にある戸隠神社の祭神として祭られて
います。

江戸時代の江戸図入り百科事典「和漢三才図会」(寺島良安)には
「この神は九頭で岩窟の中にいる。梨を供物とする。毎夜丑の刻(午
前2時頃)にまだついていない米3升を供える。恐らくこれは当山
の地主神ででもあろうか。神秘なことである」というような文を載
せてあります。

富山県にはこの九頭竜の尾が剱岳を七巻き半しているとの伝説もあ
ります。また柳田国男は「山の人生」の中で、酒顛童子は九頭竜権
現の申し子だとする「越後名寄(えちごなよせ)」を紹介していま
す。

▼戸隠山【データ】
山名:とがくしやま

★【所在地】
・長野県長野市戸隠(旧上水内郡戸隠村)。信越本線黒姫駅の南西13
キロ。信越本線長野駅からバス奥社入口停留所下車、歩いて2時間
30分で戸隠山。写真測量による標高点(1904m)がある。地形図上
には山名と三角点の記号とその標高のみ記載。

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・戸隠山標高点:北緯36度46分13.39秒、東経138度03分18.23秒

★【地図】
・旧2万5千分の1地形図「高妻山(高田)」

★【参考】
・『山岳宗教史研究叢書16・修験道の伝承文化』五記重編 (名著出
版)1981年(昭和56)
・『山岳宗教史研究叢書17・修験道史料集(T)』五木重編(名著出
版)1983年(昭和58)
・『日本歴史地名大系15・新潟の地名』(平凡社)1986年(昭和61)
・『日本歴史地名大系16・富山県の地名』(平凡社)1994年(平成6)
・「山の人生」(『柳田国男全集4』(筑摩書店)1989年(平成1)
・『和漢三才図会10』(寺島良安著)東洋文庫島田勇雄ほか訳注(平
凡社)

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山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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