山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼646号 「秩父・宝登山(ほどさん)と巨人伝説」

【概略】
巨人デエダン坊はもっこに宝登山と武甲山を入れて、尾田藤の長尾
根をてんびん棒にして担いで歩いた。しかし重いためもっこが破れ
地面に落下。武甲山はそのまま残ったが、宝登山を入れたもっこは
落ちたとき割れて宝登山と簑山に分かれたというデッカイ話。
・埼玉県長瀞町と皆野町の境

▼646号 「秩父・宝登山(ほどさん)と巨人伝説」

【本文】
埼玉県秩父にある宝登山(ほどさん)は、497mと標高は低いです
が、山頂のロウバイ園は花の時期になると見事は花を咲かせてくれ
ます。山麓からロープウエイを使えば簡単に登れることもあって多
くの人で賑わいます。その昔、弘法大師空海がこの山の頂きに宝珠
(ほうじゅ・ほうしゅ)(人の願いをかなえてくれる法具)のひる
がえるのを見て名づけたという。また窪地や凹地をあらわす「ホド」
からきているそうです。

さらに「秩父志」(秩父の郷土誌・大野満穂著)(天保10年(1839
〜明治20年(1887)成立)には、この山には、和同開珎(わどう
かいちん、わどうかいほう)が鋳造された火炉(ほど)があって、
それが山名となったとあります。宝登山周辺には皆野町金崎(かな
さき)などのように金気(カナケ)に関係ある地名が多くあります。

そのほか、宝登山は火止山(ほどさん)の意味だともいいます。山
麓に秩父三社のひとつである宝登山神社の縁起によれば、その昔、
日本武尊が山麓の泉で禊(みそ)ぎをして宝登山に登ろうとした途
中(下山途中ともいう)、ものすごい山火事に襲われました。その
時、山犬がたくさんあらわれ火を消してくれたという。

日本武尊はこれは山の神の眷属である神犬が自分を守ってくれたの
だと知り、山の名を火止山(ほどさん)と名づけ、山の神(大山祇
神・おおやまずみがみ)をまつったという(秩父郡神社明細帳)。
そんなことから火災盗難除けの守護とされ、麓の人たちに信仰され
ています。宝登山神社は宝登山の東麓の登山口にあり、宝登山山頂
には奥宮が鎮座、山犬のこま犬が建っています。

宝登山神社は、大山祇命(木花開耶姫の父親)のほか、日本磐余彦
命(やまといわれひこ・神武天皇)と火産霊命(ほむすびのみこと)
(火の神。出産時にイザナミは火傷がもと死んでしまい、怒ったイ
ザナギに殺された)をまつっています。山麓の神社本殿脇には日本
武尊が禊ぎを行ったという身曽伎(みそぎ)の泉があります。

宝登山神社北西に接して玉泉寺が(ぎょくせんじ)があります。こ
のお寺は神仏習合時代は宝登山神社の別当寺(神社の経営管理を行
った寺)でした。玉泉寺は、会慶山地蔵院と号し真言宗智山派。本
尊は地蔵菩薩で、草創は平安時代の永久元年(1113)。円空が開山
したとされていますが(『新編武蔵風土記稿』)、詳細は不明です。

幕末、寺を管理する主僧は「栄乗」というお坊さん。弘化2(1845)
年、「宝登山大権現縁起並勧化状」を作ったという。しかし明治時
代になり神仏分離令が出ると、栄乗は還俗 (げんぞく)して宝登山
神社の初代神主となってしまったそうです。

このあたりは伝説の巨人デエダン坊の活躍した地帯。ある日デエダ
ン坊は片方のもっこに宝登山を、もう片方に武甲山を入れて、尾田
藤の長尾根をてんびん棒にして担いで歩いていたという。ところが
あまりの重さのためもっこが破れ、両方の山とも地面に叩き落ちて
しまいました。

武甲山の岩は固かったためそのまま残りましたが、宝登山を入れた
もうひとつのもっこは落ちたとき割れてしまい、宝登山と簑山に分
かれてしまったということです。傾いて落ちたてんびん棒は地面に
ささり、次第に木が生えていまの長尾根の山になって残っていると
いうデッカイ話があります。

山頂から北西にのびる尾根から根古谷地区に至る裏街道は、首都圏
自然歩道「関東ふれあいの道」に指定されています。ちなみに『新
編武蔵風土記稿』によれば、江戸時代、宝登山山ろくは金崎村の秣
場(まぐさば)といい、牛や馬などの飼料や肥料の採取の草刈り場
になっていたそうです。

▼【参考文献】
・『郷土資料事典11・埼玉県」ふるさとの文化遺産(人文社)1997
年(平成9)
・『角川日本地名大辞典11・埼玉」(角川書店)1988年(昭和63)
・『新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『世界大百科事典29』(平凡社)1972年(昭和47)
・『日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本大百科全書・21」(小学館)1990年(平成2)
・『日本歴史地名大系11・埼玉県の地名』小野文雄ほか(平凡社)
1993年(平成5)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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