山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼640号 「秩父・破風山の天狗ノッキン坊」

【前文】
破風山の如金峰はいぼと天狗の神。ここは秩父三十四番札所水潜寺
の鎮守の山。でもなぜか寺では「里人がそんなことを言っている」
くらいにしかこの天狗に関心がないという。如金峰は金精神。椋神
社の方がさばけていて鎮守の山としてふさわしいのかも知れない
・埼玉県秩父市と皆野町との境

▼640号 「秩父・破風山の天狗ノッキン坊」

【本文】
 埼玉県秩父の破風山(はっぷさん)も天狗の山です。この天狗に
は何の伝承もないそうですが、山頂近くの如金峰(にょっきんぼう)
という岩峰に時々天狗が姿を見せたため、天狗の名が先か岩の名が
先か、ニョッキンボウ、ノッキンボウと里人にいい慣わされてきた
という。破風山山頂は結構な賑わいです。

 如金峰は西側の札立峠先を登ったところ。富士講の石碑の先で突
然あらわれます。土地の人たちはいぼの神さまとして願をかけ、か
つては筒酒をもってお礼に来る人で賑わったという。いまもカップ
酒が供えられています。

 ここ破風山は秩父三十四番札所水潜寺の鎮守の山。でもなぜか寺
では「里人がそんなことを言っている」くらいにしかこの天狗に関
心がないといいます。如金峰は金精神。やはりコンセーサマではさ
しさわりがあると考えるのでしょうか。

 このあたりのコンセーサマといえば、秩父市下吉田の椋(むく)
神社。金精様と夫婦和合の石碑が有名です。2月、秩父鉄道は宝登
山のロウバイ見物の人たちで大にぎわい。混雑から逃れ電車を皆野
駅で降り、途中椋(むく)神社へ向かいました。

 境内には、神社の縁起に出てくる大きなムクノキがあり、注連縄
がよく似合っています。ひときわ大きな金精様と夫婦和合の石碑が
明るい日の光に照らされています。このような椋神社の方が、さば
けていて秩父札所の鎮守の山として、ふさわしいのかも知れません。

 なお、山頂のわずか西に、秩父三十四ヶ所観音霊場の第三十三番
札所延命山菊水寺から、第三十四番札所日沢山(にったくさん)水
潜寺へ向かう順路路を越す札立峠(ふだたてとうげ)があります。

 『新編武蔵風土記稿』によれば、「天長元年、東國大旱魃にて五
穀は勿論、人畜草木も助かるべき法も、手を盡しけれども雨降らず、
然る処當山にふしぎの僧一人来りて、土民に向ひて、雨を祈らば、
?(じゅ)甘露法雨と書きたる札を立て、観音を信心せよとさとし
ければ、教えの如くして祈りけるに、三日目に其丈六尺余の法師、
蓑笠を着て山の上の岩に笈をおろし、杖をもて岩を突ば、忽ち水湧
出て滝のごとく流るれば、里人ら喜びて是を?み、彼法師を敬いけ
れば、吾六十余州を巡りて此霊地に至る。

 此所百番順礼の結願所とすれば、 今茲に西国をかたどりて阿弥
陀をおき、坂東をかたどりて東方の薬師をおき、此観音をおきて、
則百番となる。吾笈摺を紊むるのち、必ず熊野権現をはじめ、あま
たの権現来るがゆえ、信心おこたる事なかれ。

 今ぞ雨降るというより早く失給う。間もなく法雨忽ち降りて、衆
生の命助かりければ弥弥尊びぬ。札立峠 の吊も茲に始るといふな
り」とあります。

 つまり、かつて村人が大干ばつで苦しんでいると、旅の僧がやっ
てきて、「?(じゅ)甘露法雨」(『妙法蓮華経普門品第二十五』の
一説「悲体戒雷震 慈意妙大雲 ?甘露法雨 滅除煩悩焔」からの文
字。

 甘い霊液のような仏の悟りの教えの雨をそそぎ煩悩の炎を消滅し
除く)の札を立てて観音に祈るように解き、これを実行したところ、
たちまち水が地から湧きだして滝のように流れだし、村人たちはう
るおったという、故事からきているそうです。

▼破風山【データ】
【所在地】
・埼玉県秩父郡皆野町日野沢と埼玉県秩父市(旧秩父郡吉田町)と
の境。秩父鉄道皆野駅の西3キロ。秩父鉄道皆野駅からバス椋宮橋
下車、徒歩1時間30分で破風山。三等三角点(標高626.5m)と如
金峰がある。地形図上には山名と三角点とその標高のみ記載。付近
に何も記載なし。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【三等三角点】緯度経度:北緯36度04分22.36秒、東経139度03分1
9.3秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「皆野(宇都宮)」。5万分の1地形図「宇
都宮−寄居」

▼【参考】
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和5
2)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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