とよだ 時 「山の伝承伝説」民俗画
山旅イラスト通信【ひとり画展】

▼596号 「富士山・火の神のヤキモチ」

【概略】
女神・木花開耶姫を守るため、大祖神は麓に大湖を造り竜神を住ま
わせた。姫はたくましいこの男神に心ときめき、男神も麗しい姫に
惹かれていった。2神の仲は日毎に親密度を増した。この山を司る
荒ぶる火の神もまた開耶姫に憧れていた。2神を見る火の神の心は
穏やかではなかった。

▼596号 「富士山・火の神のヤキモチ」

【本文】
有史以前からの富士山の活動は数知れず。なかでも平安時代の貞
観6(864)年の噴火は10日以上も続き、流れ出る溶岩で人家は埋
まり北麓の大湖は西湖と精進湖に分断、青木ヶ原丸尾をつくり出
したといいます。この噴火にまつわる話です。

むかしむかしのその昔、絶世の美女である富士山の女神・木花開
耶姫(このはなさくやひめ)は、まわりの山の神たちはおろか、
遠く離れた諸国の山々の神からも注目の的になっていました。こ
のうるわしい姫をを守るため、大祖神(大山祇命・おおやまずみ
のみこと)は、北側のふもとに?(せ)の海を造り、男神である
竜神を住まわせました。

開耶姫は成長するにしたがいますます美しくなっていきました。
この姫を守るべき?(せ)の海の神が、ひそかに姫を慕いはじめ
ていたのです。姫もいつの間にか、このたくましい男神に、心と
きめかせていきました。2神の仲は日毎に親密度を増していきま
す。

一方、同じようにこの山をつかさどる荒ぶる火の神もまた、開耶
姫に憧れていました。火の神は姫神にいい寄ったこともあったの
ですが思いが遂げられず、嫉妬深い荒ぶる神になっていました。
仲むつまじい開耶姫ら2神を見る火の神の心は穏やかではありま
せん。この火の神の目があるため2神は逢瀬もままなりません。
ある時、火の神が所用で山を留守にすることになりました。女神
は思わず喜びの色を頬に表した。

その日2神は幸せの絶頂にいました。しかし火の神の分身である
黒雲が上空でただよっているのを幸せな2神は気がつきませんで
した。イライラする火の神。その怒りが次第にピークに達し、と
うとう大音響とともに、巨大な火柱が山を突き破って昇っていき
ました。そして有名な貞観の大噴火につながっていったのです。

大地をたたきつける轟音。爆発は10日以上も続きました。やっと
?(せ)の海まで逃げた男神女神の2人は、熱気につつまれなが
ら湖の底深く沈んでいきました。それを追うように溶岩が湖を覆
い尽くしてしまったということです。

この大噴火のことを平安時代の歴史書である『日本三大実録』(藤
原時平、菅原道真ほか)は、「有雷、地震三度、歴十余日火猶不滅」。
また「魚鼈(ぎょべつ・魚とスッポン)皆死、百姓居宅与海共埋、
或有宅無人、其数難記」とあり、溶岩が家が埋まり、人は逃げ去
って無人の荒野になったとあります。

ちなみに?(せ)の海とは、かつて富士山の北ろくにあった広大
な湖のことだそうです。平安時代の貞観6年(864)5月、大音響
とともに富士山の側火山である、長尾山で大噴火がおこりました。

流れ出た膨大な量の溶岩は、ふもとの森林地帯を焼き払ったあげく、
北ろくにあった?の海まで達してほとんどを埋没させてしまいまし
た。その溶岩流の端っこに?の海の一部が分断されてのこったのが
西湖、精進湖だと考えられています。

▼富士山頂【データ】
【所在地】
・山梨県富士吉田市、同県南都留郡鳴沢村と、静岡県富士宮市、
富士市、御殿場市、同県駿東郡小山町との境だが八合目付近から
上部は富士山本宮浅間大社の「私有地」になっており、境界がは
っきりしていない。富士急行河口湖駅からバス、河口湖口五合目
から5時間30分で富士山頂(標高3775.6m)。山頂に電子基準点と
三角点が二つある。火口内に写真測量による標高点。

【地図】
・2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」

【山行】
・第2日目:1996年(平成8)7月31日(水・快晴)富士山頂探訪
「高尾駅、大月駅、富士吉田駅、中ノ茶屋、五合目佐藤小屋、八
合目太子館泊、富士山頂お鉢めぐり、新五合目バス停、河口湖駅、
大月駅、高尾駅」:「子供の科学」取材

【参考文献】
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本三代実録』(三代実録とも)延喜元年(901年)に成立。編
者は藤原時平、菅原道真、大蔵善行、三統理平:平安時代に編纂さ
れた歴史書。(『新訂増補国史大系第4巻 日本三代実録』(前・後
篇)、黒板勝美編、吉川弘文館、初版1937年、復刊2007年に所収)
・『富士山・史話と伝説』遠藤秀男(名著出版)1988年(昭和63)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
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