山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼532号 「富山・黄金伝説の鍬崎山」

【概略】
鍬崎山は佐々成政埋蔵金伝説の山。笹のしるしのある壷49個に純金
がぎっしりつまっているという。じめじめした登山道に伝説どおり
マムシがウジャウジャ。やっと着いた山頂は360度の展望。目の前
に薬師岳がはだかる。おやつを食べ、お茶を飲んでいるうちに埋蔵
金の話などすっかり忘れていた。
・富山県富山市

▼532号 「富山・黄金伝説の鍬崎山」

【本文】
鍬崎山は埋蔵金の山。ふもとには「朝日さす、夕日かがやく鍬崎に、
七つむすび、七むすび。黄金いっぱい、光りかがやく」という里謡
(さとうた)も残されています。

いまから400年あまり前の話です。当時の富山城主、佐々成政が豊
臣秀吉が攻めよせてくるという情報に、天守閣にあった百万両の軍
用金を阿部義行に鍬崎山に埋めるよう指示したというのです。

穏してある場所は、マムシが巣をくっている大木の下あたりだとい
います。埋蔵金は笹のしるしのある短冊(たんざく)型純金がぎっ
しりつまっている壷・49個。呪文をとなえるとみつかるという。

これがいまだに埋蔵金探しの血を湧かせ、なかには家財を売りはら
い埋蔵金探しを30年間も続けた男もいたり、遭難して山岳警備隊に
助けられた人もいるそうです。

埋蔵場所は、鍬崎山のほかに立山の東面の内蔵助平、後立山連峰の
針ノ木岳、水晶岳、有峰などとも噂さされています。積雪期には北
陸電力真川調整地が基地になります。

先年の8月、あわよくばと暑いなかわざわざ登ってみました。地元
の人が本気にし、あまり夢中になって登山道をはずさないようにと
の忠告するところがかえって信憑性があります。

途中の瀬戸蔵山から見る立山高原の下に虹がかかっています。じめ
じめした登山道にはやたら蛇が多く、伝説どおりマムシがウジャウ
ジャ。

展望のない道を7時間あまりただひたすら歩きます。やっと着いた
山頂は360度の展望。目の前に薬師岳がはだかっています。おやつ
を食べ、お茶を飲んでいるうちに埋蔵金の話などすっかり忘れてし
まいました。

もう一度来ようとは思わないけれど妙な満足感に浸ります。帰りは
またジメジメした同じ道をたどります。

今回は女性ふたりと同行。途中で出会った山仕事のおじさんが「両
手に花でいいねえ」と冷やかします。「どちらか気に入った方をあ
げげますよ」といったら同行の女性「私たちにも選ぶ権利あるわよ
ねえ」。いや〜笑った、笑った。

・【データ】
【山名・地名】鍬崎山(くわざきやま)

【所在地】
・富山県富山市(旧富山県上新川郡大山町)。富山地方鉄道立山線
立山駅の南東5キロ。富山地方鉄道立山駅から1時間でスキー場、
ゴンドラ利用、大品山経由5時間30分で鍬崎山。二等三角点(2089.
7m)がある。そのほか付近に何もなし。地形図上には山名と三角
点記号とその標高のみ記載。付近に何も記載なし。

【名山】
・日本山岳会選定「日本三百名山」(第257番選定):日本百名山以
外に200山を加えたもの。

【位置】
・【二等三角点】緯度経度:北緯36度32分23.83秒、東経137度28分4
0.85秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「小見(高山)」。5万分の1地形図「高山
−五百石」

【参考】
・「立山をめぐる伝承説話」佐伯幸長:(「山岳宗教史研究叢書・10」
(名著出版)所収)
・「秘録・北アルプス物語」(朝日新聞松本支局)1982年(昭和57)
・「富山県山名録」橋本廣ほか(桂書房)2001年(平成13)
・「立山の昔話」立山黒部貫光(出版年記載なし)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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