山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼531号 「富士山・五合目の地震」

【概略】
富士山五合目上の姥ヶ懐は日蓮がこもって修行したころと「甲斐国
史」などにある。その前で食事中突然、グラリと大地が揺れた。富
士山がなにかといわれる昨今、逃げ腰になる。それにしても地震は
富士山をも持ち上げることをいまさら体験した。
・山梨県富士吉田市

▼531号 「富士山・五合目の地震」

【本文】
▼山旅【画展】531号(01・03)「富士山・五合目の地震」
【本文】
富士山の旧登山道を富士吉田市から登ります。北口本宮富士浅間
神社に参拝し、原生林の中の舗装道を3時間半、大石茶屋に着き
ます。さらに馬返し、三合目・四合目を過ぎて富士山五合目、佐
藤小屋に至ります。

小屋の上には八角堂があってわきに、日蓮宗の開祖日蓮上人のお
経を持った像が建っています。日蓮上人は1269(文永6)年に富
士山に登り「姥ヶ懐(ふところ)」の岩穴にこもって修行したとい
います。

『日蓮大士眞実傳』四之巻「甲駿(かうすん)に遊化(ゆうげ)
して富士山に登(り)給ふ事」という文書にその時のいきさつが
書かれています。……ある夜、弟子の日元(にちげん)が、故郷
の日蓮に富士山の話をします。

すると聖人は、「去れば我もかねて願はしきことあり。いでや甲斐
の国より富士山に登らばやと。思ひ立(つ)日を黄道吉日。これ
より旅の要意しつ」と大乗り気。こうしていまの富士吉田に行き
ました。

しばらく滞留したのち、「信者十人ばかりを案内として。富士に登
山なし給ひ。時に天晴(れ)風静(か)にして十三州は一望の眼
下に遮(さへぎ)り。誠に閻浮無雙(えんぶむそう)の名山なり
と賞嘆なし給ひ。…

…兼ねて書写ありし法華経一部を。山の半腹に埋め巌石(いはお)
の上に座して。暫時(しばし)御経あそばし給ひける。其地(そ
のところ)を今に經が嶽とて。其古蹟(跡)をとヾむ」とあり、
経ヶ岳での様子を書いています。

また地誌『甲斐国志』巻之三十五にも出てきます。「五合五勺道ヨ
リ南ノ岩崛(くつ)ヲ經ガ岳ト云(フ)相伝(フ)昔僧日蓮此(ノ)地
ニ於テ法華経読誦(しょう)セシ地ナリトゾ」とあります。

分かりやすくいうと「五合五勺、道より南の巖崛を「経カ嶽」と
云う。相伝え云う。僧日蓮の法華経を読誦せし地なりとぞ。堂一字
あり、その内に銅柱に題目を鋳付たり。但し、日蓮参籠の地は少し
く、上に巖穴あり。今「姥ガ懐」と称す。これ日蓮、風雨を凌ぎし
所なり」などに出ています。

ちなみに明治の廃仏棄釈で経ヶ岳も荒廃寸前にまで落ちぶれまし
た。1952年(昭和27)、当時の身延別院初代住職だった藤井日静上
人がここに参詣しました。その荒廃ぶりを驚いて、当寺の富士山麓
電鉄社長だった堀内一雄氏と復興計画を相談しました。

電鉄社長の堀内氏が、三合目までだったバス道路を五合目まで延長
を約束。日静上人は全国に浄財を呼びかけました。その結果1951
年(昭和26)、ついに八角堂(鉄骨鉄筋)の常唱殿を完成させたの
でした。

以降、経ヶ岳は身延山別院代々の住職に守られてきました。しかし
2005年(平成17)、管理運営を身延山久遠寺にゆだねました。いま
は身延山久遠寺の直轄地となっているそうです。

ある年の7月の半ば、富士吉田駅から歩き、五合目の日蓮上人が
修行したお堂の前で食事をしました。突然、グラリと大地が揺れ
ました。

富士山がなにかといわれる昨今、衝撃です。あわてて岩が崩れた
り、地面に亀裂が入っていないかとか、山頂が吹っ飛んでいない
かとか心配になります。幸い何もなくひと安心。このまま山頂を
目指していいものかと気になります。

それにしてもこのデカイ富士山を地震は簡単に持ち上げられるん
だ……。こんな当たり前なことをエラク感心したものでした。そ
の後、なんだかんだいいながら、結局山頂に登りお鉢めぐりを楽
しんじゃいました。

▼【データ】
【所在地】
・山梨県富士吉田市。富士急行富士吉田駅から歩いて6時間で五合
目佐藤小屋、15分で経ヶ岳、八角堂、聖徳太子碑。三等三角点(23
86.1m)がある。周辺に八角堂、姥ヶ懐、聖徳太子碑がある。地形
図に三角点の標高のみ記載、山名なし。付近に何も記載なし(佐藤
小屋の文字もなし)。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【三角点】北緯35度23分8.42秒、東経138度44分52.22秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」or「須走(甲府)」(2図
葉名と重なる)。5万分の1地形図「甲府−山中湖」

【参考】
・「甲斐国志」(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大日
本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)
・「日蓮大士眞実傳」四之巻・甲駿(かうすん)に遊化して富士山
に登(のぼり)給ふ事)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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