山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼517号 「紀伊・金剛山の蛇谷」

【前文】
金剛山の蛇谷は「岩橋造り」で役ノ行者に逆らった一言主の神が、
葛の蔓で七巻きも縛られ、置き去りにされた所という。呪縛された
一言主神が、どうしても葛を解くことができず、その苦しいうなり
叫ぶ声は幾年たってもまだ絶えていないと伝える。
・奈良県御所市

▼517号 「紀伊・金剛山の蛇谷」

【本文】
▼@山旅【画っ展】517号(00・10)「紀伊・金剛山の蛇谷」
【説明前文】
金剛山の蛇谷は「岩橋造り」で役ノ行者に逆らった一言主の神が、
葛の蔓で七巻きも縛られ、置き去りにされた所という。呪縛され
た一言主神が、どうしても葛を解くことができず、その苦しいう
なり叫ぶ声は幾年たってもまだ絶えていないと伝えています。
・奈良県御所市
▼山旅【画っ展】517号(00・10)「紀伊・金剛山の蛇谷」
【詳細本文】
 奈良県と大阪府の境いにそびえる金剛山や大和葛城山(かつて
はこのあたりをただ葛城山と呼んだ)は、修験道の開祖・役(え
んの)行者の修行の場だったという。その金剛山から東側の御所
市へと流れる「蛇谷」という沢があります。

 蛇谷の北側には葛城一言主神社があり、この神社は『古事記』
にも登場するほど古い。この神が、飛鳥時代の696(持統9)年の
「岩橋造り」の話では、役行者に鬼として使役されています。

 岩橋造りとは、葛城山と吉野金峰山の2大聖地の間の空中に、
岩で造った橋を架け、一般行者たちの通行を楽にしようと、役行
者が考えた岩橋建造の計画(『今昔物語集』第十一巻)です。役行
者は人夫として全国から天狗や鬼神が集めてました。そしてどこ
からか大岩を集め、夜を徹しての突貫工事が始まりました。

 人夫の一人であった一言主の神はその時、自分は姿が醜いので
夜だけ働きたいと言い張りました。気の短い行者は怒って、一言主
を激しく叱咤しました。それを怨んだ一言主神は、朝廷に「行者
が世の中を混乱させようとしている」と讒訴(ざんそ)しました。

 その結果、役行者は伊豆の大島に流され、「岩橋計画」は中断し
たといいます。その時の作りかけ途中のあとが大和葛城山近くの
岩橋山にある「久米の岩橋」だというのです。

 伊豆の大島に流された役行者は、昼間はおとなしくしています
が、夜になると富士山へ飛んでいき修行、また関東・東北の山々
をめぐっていたといいます。

 それから3年後、天皇に許されて伊豆大島から奈良へ帰った行
者は、葛の蔓で7巻きも縛り(不動明王と孔雀明王の呪法で縛っ
たとも)、谷底に置き去りにしたという言い伝えがあります。その
谷が蛇谷だというのです。

 その後、泰澄が巡業でこのあたりにやってきて、なにやら蛇谷
からの苦しいうなり声に気づきました。泰澄は一言主を助けよう
と、ねんごろに祈ったところ、葛の蔓の結わえつけが解けてしま
いました。

 その時、暗闇の中から泰澄を叱る声が響き、蔓は元通り縛られ
ていたといいます。その後はどんな手を尽くしても葛を解くこと
ができず、一言主神の苦しいうなり叫ぶ声は続き、いまだにその
声は絶えないと伝えられています。

 なかには一言主神は長さ2丈半(1丈は約3.0303 mだから7.575
75mとはデカイ!)くらいの黒ヘビにされ、いまでは行者を恨む
気力もなくなってしまったという本さえあります。暗闇の中から
した声の主は、役行者であろうとされています。

 かつて葛城山頂にあったという一言主神社は、いまは同市森脇
地区にまつられています。そして参拝者に「いちごんさん」と親
しまれ、私が訪れた時には、「一陽来復」ののぼりがはためいてい
ました。

 一方、『本朝神仙伝』(ほんちょうしんせんでん)という本では、
蛇谷は吉野山にあるということになっています。そのため、その
後も吉野へ行くたび地元の人に聞いてみるのですが、みなさん知
らないというばかりです。この手の話は人に聞いてもまず無理で、
コツコツ古書を調べる以外にありません。残念ながらまだ確認で
きていません。



▼【データ】
【所在地】
・奈良県御所(ごせ)市。JR和歌山線吉野口駅駅の西7キロ。J
R和歌山線、近鉄南大阪線御所駅からバス、名柄上名柄下車、歩い
て1時間30分で蛇谷源頭。付近に何もなし。地形図上に何も記載な
し。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【蛇谷源頭】緯度経度:北緯34度25分44.05秒、東経135度41
分38.5秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「御所(和歌山)」


▼【参考】
・『役行者伝記集成』銭谷武平(東方出版)1994年(平成6)
・『古事記』:新潮日本古典集成・27『古事記』校注・西宮一民(新
潮社版)1989年(昭和64・平成1)
・『今昔物語集』巻十一:日本古典文学全集21『今昔物語1』馬淵
和夫ほか校注・訳(小学館)1993年(平成5)
・『役行者本記』(奈良時代・神亀元(724)年・役義元著の記述が
あるがはっきりしない):(「役行者伝記集成」)
・『日本大百科全書・9』(小学館)1986年(昭和61)
・『本朝神仙伝』大江匡房著(日本古典全書・古本説話集 川口久
雄・校注)(朝日新聞社)1971年(昭和46)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

………………………………………………………………………………………………
山旅イラスト【ひとり画展通信】
題名一覧へ戻る