山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼504号「足尾・庚申山のコウシンソウ」

・【概略】
庚申山に生えるコウシンソウ。日光山塊や足尾山地の固有種で、足
尾町のものは1952年(昭和27)、国の特別天然記念物に指定されて
います。この花は見かけによらずタヌキモ科の食虫植物です。花の
咲いたあと、花茎が長く延びてそりかえり、後ろの岩にふれると先
端の果実が製け種子を散らして、垂直の岩壁に生きています。

▼504号「足尾・庚申山のコウシンソウ」

【本文】
街角や村の辻に建っている庚申塔はよく見かける石塔です。これは
庚申信仰の講中が建てた塔です。その庚申信仰の総本山が栃木県に
ある庚申山にあります。

この山に生えるコウシンソウも珍しい植物です。1890年(明治23)、
この山の岩壁で三好学博士が初めて発見して名前をつけたそうで
す。日光山塊や足尾山地の固有種で、当地と日光の男体山や女峰山、
袈裟丸山にしか見られない珍草だという。

ここのものは1952年(昭和27)、国の特別天然記念物に指定されて
います。かわいいコウシンソウは見かけによらずタヌキモ科の食虫
植物。高山の日陰に生え、根元に数枚の葉が群がっています。

葉は先が丸く、ヘリが少し内側に巻いており、表面に小さな線毛が
密生。それから出る粘液で虫をとらえ栄養にします。6月から7月
ごろ、葉の間から一本の細い花茎を出します。

花茎は高さ3〜8センチ。ふつうは2本に分かれ、こまかい線毛が
生えその先に淡紫色の花を咲かせます。花は、スミレのような距の
ある唇形花。横向きに開きます。

上唇は短く、3つに裂けた下唇は長く、真ん中のものは特に大きい。
雄しべは2本。きびしい垂直の岩壁にへばりつくようにして花が咲
いています。そのあと花茎が長く延びてそりかえり、うしろの岩に
ふれると先端の果実が製けて種子を散らし増えていきます。いろい
ろな知恵を使ってなんともしぶとく生きています。

しかし一部の園芸家による採集で絶滅のおそれがあるとし「レッド
・データ・ブック」で「危急種」に指定されているそうです。
・タヌキモ科ムシトリスミレ属の食虫植物


▼【データ】
【山名・地名】・庚申信仰。年劫を経た白猿が棲んでいたといい、
猿が申に通じることから庚申山と呼ばれた。猿の浄土とも呼ばれた。

【所在地】
・栃木県日光市(旧上都賀郡足尾町)。わたらせ渓谷鉄道通同駅

の北西6キロ。わたらせ渓谷鉄道通胴駅からタクシー・銀山平から
3時間20分で庚申山。写真測量による標高点(1892m)がある。地
形図に山名と標高点の標高記載あり。標高点から東方513mにコウ
シンソウの自生地がある。東南730mに庚申山荘がある。

【位置】
・標高点:写真測量による標高点(1892m)。【緯度経度】北緯36度
40分23.11秒、東経139度21分40.54秒(国土地理院「電子国土ポー
タルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「皇海山(日光)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)

【参考文献】
・「角川日本地名大辞典9・栃木県」大野雅美ほか編(角川書店)1
984年(昭和59)
・「図聚天狗列伝・東日本編」知切光歳(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・「日本歴史地名大系9・栃木県の地名」寶月圭吾(平凡社)1988
年(昭和63)
・「世界の植物・1」(朝日新聞社)1975年(昭和50)
・「植物の世界・2」(朝日新聞社)1996年(平成8)
・「牧野新日本植物図鑑」牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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