山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼485号 「房総・鹿野山高殿の大太(だいた)王子伝説」

家々を焼きながら浜づたいに進む大和国の軍勢。見ると丘陵の上に
雲を突くような大男が太陽を背に立っている。ざわめきたつ軍に雨
のように降り注ぐ矢。さすがの大和軍もほうほうの体で後退した。
それは大太の作った巨大なわら人形だった。
・千葉県君津市

▼485号 「房総・鹿野山高殿の大太(だいた)王子伝説」

【本文】
千葉県房総半島の中央部に鹿野山(かのうざん)という山がありま
す。マザー牧場と一時トラ騒動で有名になったところ。山頂には白
鳥神社があって日本武尊(やまとたけるのみこと)とその妃・弟橘
姫(おとたちばなひめ)をまつってあります。

山名は、ここから金属が採れたため「金属が生まれる」と書く「か
のうざん・金生山」から転じた名前だという。また切り替え畑や、
焼き畑(カノ)があったところ。

さらに語源の刈野が転じて鹿野になった(「日本山岳ルーツ大辞典」)
などの説があります。

その昔、この山の高殿にこの国を治める王が住んでいました。国王
は巨人ダイダラボウを国神として仰ぎ、自らの王子を神にちなんで
大太と名づけました。

大太は知恵に恵まれていました。ある時大太は、この地に逃れてき
た相武(さがむ=相模国・神奈川県)の国の国造(くにのみやっこ)
に出会いました。

国造がいいました。「大和(やまと)がわが国を襲った。強大な大
和国は東方十二道のまつろわぬ国々に入り、次々に火を放ち国を奪
い国人を殺している」。

大太は聞きました。「なぜ大和は安らかな国々を侵すのか」。「わか
らぬ…」。やがて大和国の皇子・ヤマトタケルの軍船が走水(はし
りみず・神奈川県横須賀市)から上総の国へ上陸。

軍勢は住民の家々を焼きながら浜づたいに進んできます。突然の襲
撃に逃げまどう村人たち。やがて大和の軍隊が内陸に兵を進めます。
その時兵士の中から声があがりました。

「あれは何だ」。見ると丘陵の上に雲を突くような大男が太陽を背
に立っています。「巨人神ダイダラボウだ」。ざわめきたつ大和軍。
すかさず丘の上から雨のように降り注ぐ矢。

さすがの大和軍もほうほうの体で後退、東京湾側浜辺へ後退を余儀
なくされました。房総丘陵上には、大太の作った巨大なわら人形が
太陽を背に風にゆらいでいたのでした。

しかしその後強大な大和の軍勢は執ように攻め続け、高殿の国王一
族を討ち取り、ついにこの国も治めてしまったということです。

その時の残虐さはいまでも伝説として残り、討たれた王は鬼とされ
て鹿野山周辺に伝えられています。文字通り「勝てば官軍」なので
すね。

▼【データ】
【山名】かのうざん
・【異名、由来】「金属が生まれる」と書く「かのうざん・金生山」。
切り替え畑や焼き畑(カノ)があったところ。語源の刈野が転じて
鹿野になった(「日本山岳ルーツ大辞典」)。

【所在地】
・千葉県君津市。内房線佐貫町駅の東7キロ。JR内房線佐貫町駅
からバス30分で鹿野山。神野寺と(1)電子基準点(341.7m)、(2)
電子基準点付、(3)電子基準点(二等水準点)、(4)一等三角点(3
52.4m)、(5)一等水準点がある。

【ご利益】
・【神野寺】安産・子育て・子授け・乳授祈願。:奥の院(本尊は飯
縄大権現(白狐に乗った烏天狗)):大下駄に触れると足腰の守護と
健康。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【電子基準点】緯度経度:北緯35度15分17.29秒、東経139度57分1
5.68秒

・【電子基準点(二等水準点)】緯度経度:北緯35度15分17.29秒、東
経139度57分15.68秒

・【電子基準点付】緯度経度:北緯35度15分17.29秒、東経139度57
分15.68秒

・【一等三角点】緯度経度:北緯35度15分17.94秒、東経139度57分2
0.63秒

・【一等水準点】(352.4m、水準点)緯度経度:北緯35度15分19.58
秒、東経139度57分21.98秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「鹿野山(横須賀)」or「鬼泪山(横須賀)」
(2図葉名と重なる)。5万分の1地形図「横須賀−富津」

【参考】
・「角川日本地名大辞典12・千葉」川村優ほか編(角川書店)1984
年(昭和59)
・「鹿野山と山岳信仰」岡倉捷郎(崙書房)1988年(昭和63)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「房総志料続篇」:(「房総叢書・6」(房総叢書刊行会)1941年(昭
和16)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・「房総の伝説」(日本の伝説・6)高橋在久ほか(角川書店)1976
年(昭和51)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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