山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼475号 「落ちこぼれ竿打ち仙人」

【概略】
大和の国出身の「竿打ち仙人」は2〜3mの所をヒョロヒョロ飛べ
るていどの落ちこぼれ仙人。悪ガキ共がトンボやチウと同じように、
竿をもって仙人を追い回したという。しかし、いつしかいなくなり
「その終(は)つる所を知らざりけり」と古書『本朝神仙伝』にあ
る。

▼475号 「落ちこぼれ竿打ち仙人」

【本文】
山や峠には仙人の名がつくところが意外と多くあります。ただ仙人
といっても種類があり、天仙、地仙、尸解仙(しかいせん)に分け
られるといいます。

そのほか、陸仙、水仙、新仙、童仙、玉仙、仙女などの区別がある
そうです。空を飛んだり、変身、不老長寿など自由自在のこんな仙
人たちにも落ちこぼれがいるというから愉快です。

奈良時代、大和の国出身の「竿打(さおうち)仙人」という仙人が
いました。これが未熟な仙人で、仙薬を飲んで一生懸命修行をしま
すが、いっこうに空を飛べません。

半分あきらめかかっていたころ、勢いをつけて飛び上がったら、ど
ういうはずみか、2〜3ばかりの所をヒョロヒョロ飛べるようにな
りました。

それでも大人たちは、普通の人のできる技ではないとすっかり感心
し、うわさになりました。しかし、喜んだのは悪ガキ共です。トン
ボやチョウを追うのと同じように、竿をもって仙人を追い回します。
竿打ち仙人はあわてにあわてて、必死に逃げ回ったということです。

竿で追いかけられていたので「竿打ち仙人」と呼ばれていました
が、いつしかいなくなったという。平安後期の1097(承徳元)年こ
ろ成立したといわれる『本朝神仙伝』(大江匡房著)「竿打ちの仙
(ひじり)の事 第卅」には次のように出ています。

「竿打(さをう)ちの仙(ひじり)は、大和の國の人なりけり。
仙(ひじり)の道を学べども俗骨(ぞくこつ)猶(なお)し(し
はなおを強めていう語)重くして、藥餌(やくじ)の力も施(ほ
どこ)し難くぞありける。地を離れて飛べども、その高さ七八尺
に過ぎざりしかば、年少(としわか)き兒童(わらべ)ら、皆竿
(さを)を捧げて追ひたり。故(かるがゆゑ)に此(かか)る名
をぞ得たりける。その終(は)つるところを知らざりけり」とい
うのです。世の中には愉快な話があるものです。

【参考】
・「仙人の研究」知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・「本朝神仙伝」大江匡房(「日本古典全書・古本説話集」川口久雄
校注(朝日新聞社)1971年(昭和46)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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