とよた 時・山のゆ-もぁ-と(イラスト)
山旅漫歩゚
【ひとり画通信】

▼466号 「北アルプス爺ヶ岳・権兵衛種蒔きゃカラスがほじくる」

【概略】
後立山連峰の爺ヶ岳は、初夏、種まき爺さんの雪形があらわれるの
でその名があります。しばらくすると爺さんの足元にカラスの雪形
があらわれ、まいた種をつつきに来る。するとこんどは婆さんの雪
形があらわれてカラスを追い払うというから面白い。
・長野県大町市と富山県立山町との境

▼466号 「北アルプス爺ヶ岳・権兵衛種蒔きゃカラスがほじくる」

【本文】
日に日に暖かくなって山麓に春がやってくると、高い山の雪も溶
けはじめます。そしてあらわれる黒い岩肌や、残雪がいろいろな
模様になります。

それを雪形(ゆきがた)といってかつては畑に種をまくなど農作
業をはじめる目安になっていたそうです。北アルプスの後立山連
峰(うしろたてやまれんぽう)・爺ヶ岳(じいがたけ・2670m)に
も雪形があらわれます。

爺ヶ岳は、ピークが3つあり、かつては北の2峰を「五六岳」と
呼び、南峰を祖父(じじ)岳といっていたそうです。明治時代に
なってお上が地図をつくるとき爺ケ岳と記載したという。

3峰はそれぞれ南峰、中央峰(主峰)、北峰と呼ばれ、中央峰が26
70mとこの山を代表する標高になっていて大町の市街地からもよ
く眺められます。

爺ヶ岳にはふたつの種まき爺さんの雪形(ゆきがた)があらわれ
るという。ふたつの雪形は全く別の方向から眺められるもので、
片方から眺めると他の雪形はゆがんでしまうという。

春になり雪どけのころがやってくると、先ず南峰と中央本峰(主
峰)間にくい込む白沢上部(鞍部直下)に「ざる」を持った「種
まき権兵衛爺さん」の雪形(ゆきがた)が黒い岩肌になってあら
われます。これが第1の爺さんです。

大町山岳博物館前など、見えるところはほとんど大町市街周辺に
限られるそうです。市内でも北は木崎湖付近からで、南は高瀬川
を越えると形が崩れてくるといいます。

形は小さいですがこの地方の独特の「雪ばかま」をはいていて、
種をまいているように手を振っています。時期が早いと腰のあた
りで切れてしまいますが、間もなくつながっていきます。

そしてしばらくすると、爺さんの足元に黒い影があらわれます。
これが爺さんのまいた種をほじくるカラスの雪形だといいます。
「権兵衛種蒔きゃカラスがほじくる」のことわざどおりなのです。

さらにそのあと、第2の爺さんが南峰直下に大きい形であらわれ
ます。雪形は前かがみになっていて種まきの作業をしているよう
だという。

これは安曇平一円、とくに穂高あたりから見るのが最高だそうで
す。時期が少し遅れて、中央本峰(主峰)に同じような人の形を
した形があらわれます。

爺さんの応援に来た婆さんだとし、婆さんがカラスを追い払って
いるのだといっています(「残雪の芸術5」東京中日新聞コラム「山
の紋章雪形」所載)。これらの種まき爺さんが爺ヶ岳の山名の由来
になっているという。

何だかユーモラスなストーリーを持つ雪形ですよね。雪形はもち
ろん、北アルプスだけでなく、中ア、南ア、富士山や東北の山々
などにたくさんあります。

しかし、このようにストーリーになってあらわれるのはここだけ
ではないでしょうか。ふもと村人の豊かな想像力には驚かされま
すよね。

なお、雪形にはこの岩肌があらわれた黒い模様と、雪が溶けて残
った白い模様があります。

ちなみに各地の雪形はこのほか、宮城県栗駒山の「駒形」、新潟県
?差岳の「エブリ(農具)」、会津駒ヶ岳の白い馬、妙高山の山の
字、富士山の鳥の形、白馬鑓ヶ岳の「鴨と双鶏」。

鹿島槍ヶ岳の「鶴と獅子」、八方尾根の「ソバまき一家」、常念岳
の常念坊、蝶ヶ岳の「蝶」、中央アルプス木曽駒ヶ岳の「駒形」、
宝剣岳近くの「島田娘」、南駒ケ岳の「五人坊主」、南アルプス・
農鳥岳の「農鳥」と「農牛」、などが知られています。
・長野県大町市と富山県立山町との境


▼【データ】
【山名】じいがたけ
・【異名、由来】:種まき爺さんの雪形による。

【所在地】
・長野県大町市と富山県中新川郡立山町との境。大糸線信濃大町駅
の北西15キロ。JR大糸線信濃大町駅からバス、扇沢から歩いて5
時間30分で爺ヶ岳。

北峰(標高点がある)と中峰(本峰・三等三角点がある)、南峰(山
名なし、標高点なし)がある。

地形図上には山名と三角点記号とその標高、標高点記号とその標高
のみ記載。三角点より北北東方向直線約540mに北峰標高点がある。
付近に黒部峡谷(特)の文字を記載。

【名山】
・日本山岳会選定「日本三百名山」(第253番選定):日本百名山以
外に200山を加えたもの。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第56 番選定)
・清水栄一選定「信州百名山」(第54番選定)
・田中澄江選定(1981年)「花の百名山」(第69 番選定・カライト
ソウ)
・田中澄江選定(1995年)「新・花の百名山」(×選定外)

【位置】
・【北峰標高点】緯度経度:北緯36度35分34.29秒、東経137度45分9.
84秒(誤差あり)(国土地理院「地図閲覧サービス」から検索)

・【中峰(本峰)三等三角点】緯度経度:北緯36度35分17.89秒、東
経137度45分3.3秒(電子国土ポータルWebシステムから検索)

・【南峰】緯度経度:北緯36度35分11.9秒、東経137度44分49.95秒
(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・【北峰】:標高点がある。2万5千分の1地形図「神城(高山)」&
「十字峡(高山)」(2図葉名と重なる)

・【中峰(本峰)】:三等三角点がある。2万5千分の1地形図「黒
部湖(高山)」&「十字峡(高山)」&「大町(高山)」(3図葉名と重
なる)

・【南峰】:地形図に山名なし、標高点なし。2万5千分の1地形図
「黒部湖(高山)」&「十字峡(高山)」&「大町(高山)」(3図葉名
と重なる)

【山行】
・第9日・1987年(昭和62)8月3日(月・晴れ)爺ヶ岳探訪:19
87年(昭和62)7月26日(日)〜8月3日(月)「新宿駅・千国駅
・源長寺・山の神尾根・天狗原・白馬大池・小蓮華山・白馬岳・天
狗の頭・不帰嶮(かえらずのけん)・唐松岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳
・冷池・爺ヶ岳・扇沢出合・信濃大町・松本駅・新宿駅」:「後立山
連峰(千国白馬大池から爺ヶ岳・扇沢)縦走」家内と同行

【参考】
・「エリアマップ3鹿島槍黒部」磯貝猛(昭文社)94年版
・「信州山岳百科・1」(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・「山の紋章・雪形」田淵行男著(学習研究社)1981年(昭和56)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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