とよだ 時 「山の伝承伝説」民俗画
山旅イラスト通信【ひとり画展】

▼463号  「吉野・青根ヶ峰清明の滝のツチノコと古文書」

【概略】
一時話題になったツチノコ。『日本書紀』や『古事記』にもあり、
目撃者は全国的。とくに紀伊半島のものは「…和州の菜摘川、清明
の滝の辺りで往々にこれを見かける」(寺島良安『和漢三才図絵』)
と具体的。坂を下るのは早いが登りは遅く高いところへは追ってこ
ないとある。足にかみつくという。
・奈良県川上村

▼463号  「吉野・青根ヶ峰清明の滝のツチノコと古文書」

【本文】
一時話題になったツチノコ(野槌・のづち)。ビールびんのように
ずんどうな奇妙な形で、目撃者は全国的ながらまだ確認はされず、
いまでは懸賞金がついているほどです。ところがこの蛇、野槌蛇(の
づちへび)ともいい奈良時代から記録があり、いまでも目撃者は全
国的です。

『日本書紀』では(巻第一・神代上第5段)に(伊弉諾尊(いざな
ぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)は淡路洲(あはじの
しま)など次々と国を生んだ。

「次に海(うなはら)を生む。次に山を生む。次に木の祖(おや)
句句廼馳(くくのち)を生む。次に草(かや)の祖草野姫(かやの
ひめ)を生む。亦(また)は野槌(のつち)と名(なづ)く。既に
して伊弉諾尊(いざなぎのみこと)・伊弉冉尊(いざなみのみこと)、
共に議(はか)りて曰(のたま)はく、「吾已(われすで)に大八
洲国(おほやしまのくに)及び山川草木を埋めり。何(いかに)ぞ
天下(あめした)の主者(きみたるもの)を生まざらむ」とのたま
ふ」。とあります。

また『古事記』では(上つ巻・神々を生む項)に、ツチノコ野椎神
のづちがみ)神世7代の最後の伊耶那岐(いざなぎ)・伊耶那美(い
ざなみ)2神は別天つ神のお言葉を受けて「命(みこと)」の称で
日本の国産みや神産みにとりかかる。

…風の神、木の神、山の神(大山津見の神)を生んだあと「次に野
の神、名は鹿屋野比売(かやのひめ)の神を産みたまひき。亦(ま
た)の名は野椎(のづち)の神といふ(志那都比古の神より野椎ま
で、?(あわ)せて四はしら(風、木・山・野)の神ぞ)」。と記載
されています。

さらにとくに紀伊半島のツチノコについては、江戸中期初頭の1712
(正徳2)年の図入り百科事典『和漢三才図会』(大阪の医師・寺
島良安著)にも次のような記載があります。その(巻第四十五・竜
蛇部)に「野槌蛇(のづちへび)。<合木蛇の類であろうか>。思
うに深山の木の穴にいる。大きいものは直径五寸、長さ三尺。頭・
尾は均等で尾は尖っていないので、柄のない槌に似ている。それで
俗に野槌という。

和州(やまと)の吉野山中の菜摘川(国?(くず)の夏実川・吉野
川が菜摘地区に入ると菜摘川となる)、清明の滝(せいめい・川上
村の蜻螟(せいめい)滝)のあたりで往往にこれを見かける。口は
大きくて人の脚に噛みつく。坂を走り下って大へん速く人を追いか
ける。ただし、登りはきわめて遅い。それで、この蛇に逢えば急い
で高い処へ登れば、追っ手はこない」と具体的です。

奈良県吉野町上千本からさらに奥へ、金峰神社から30分のところに
青根ヶ峰というピークがあります。ここはもと金峰山(きんぷせん)
といったところ。大峰山への入り口になっています。少し先の林道
を左折、音無川沿いに下っていくと問題の滝があります。

この滝は蜻蛉の滝になっていますが古くは清明の滝といい、奇岩・
漠水が見物で松尾芭蕉も訪れたところ。むかしはツチノコ(野槌蛇)
がよく見かけたという場所です。滝のわきの岩上に弁天宮があり、
付近の不動堂には不動明王と役ノ行者の像が安置してあり、いまは
滝の近くまでバス道路が通り、あたりに県民グラウンドまでできて
しまうにぎやかさ。

滝のまわりを一周する遊歩道もあります。滝はさすがに文人墨客が
好んで訪れただけあって水量も多く、水しぶきがすごい。滝下を渡
るにちょっと勇気が要ります。いくら山奥とはいえかなり人間くさ
い環境。幻の生物は生き残っていけるのでしょうか。

▼【データ】
【所在地】
・奈良県吉野郡川上村。近鉄吉野線吉野駅から2時間半で青根ヶ峰
1時間半で蜻蛉の滝。弁天宮、不動堂と、不動明王と役ノ行者の像
があり、遊歩道もある。地形図上には滝名と鳥居記号のみ記載。滝
より東方向直線約713mに大滝集落の郵便局、交番、バス停がある。

【位置】
・【蜻蛉の滝】緯度経度:北緯34度21分12.83秒、東経135度54
分59.05秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検
索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「新子(和歌山)」

【山行】
・第3日:2004年4月2日(金・くもり)奈良県蜻蛉の滝探訪:20
04年3月31日(水)〜4月9日(金)「京都駅・吉野・青根ヶ峰・蜻
蛉の滝・大滝バス停・大和上市駅・吉野口駅乗り換え・五条駅乗り
換え・極楽橋駅・高野山奥ノ院・薄峠・熊野古道小辺路・萱小屋跡
・五百瀬・十津川温泉・熊野ワクワクの郷キャンプ場・熊野大社・
新宮駅・那智の滝・新宮駅・名古屋駅」】:「吉野・金峰山・蜻蛉の
滝・高野山・小辺路・熊野神宮・那智の滝縦走」家内と同行

【参考】
・「角川日本地名大辞典29・奈良県」永島福太郎ほか編(角川書店)
1990年(平成2)
・「古事記・上つ巻」(神々を生む項):新潮日本古典集成「古事記」
西宮一臣校注(新潮社)2005年(平成17)
・「山岳宗教史研究叢書4・吉野・熊野信仰の研究」五来重(名著出
版)1975年(昭和50)
・「日本書紀・巻第一」神代上第5段:「岩波文庫日本書紀・1」坂
本太郎ほか校注(岩波書店)1996年(平成8)
・「和漢三才図会」(巻第四十五竜蛇部)寺島良安:東洋文庫471「和
漢三才図会7」島田勇雄ほか訳注(平凡社)1989年(平成元)所収

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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