山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼445号 「丹沢・鍋割山大団子小団子」

【前文】
ダラダラとどこまでもつづく丹沢大倉尾根を登ります。塔ノ岳直
下、金冷シ(きんびやし)の頭から道を左へたどり、鍋割山稜を
鍋割山へ向かいます。鞍部からあえぎながら登った所が大丸とい
う山です。ここ大丸という山の名は、丸い山容からの感じがから
きているようです。
・神奈川県秦野市と山北町の境。

▼445号 「丹沢・鍋割山大団子小団子」

【本文】
 ダラダラとどこまでもつづく丹沢大倉尾根を登ります。塔ノ岳

直下、金冷シ(きんびやし)の頭から道を左へたどり、鍋割山稜

を鍋割山(なべわりやま)へ向かいます。鞍部からあえぎながら

登った所が大丸(おおまる)という山です。



 名前に「丸」という字がつく山は、丹沢では西丹沢の檜洞丸(ひ

のきぼらまる)や、畦ヶ丸(あぜがまる)があります。名前に丸

がつくといえば、牛若丸(源義経の幼名)、日吉丸(豊臣秀吉の幼

名)を思い浮かべます。また船の名前も「丸」ついたものが多い。

外国の港では「丸が入った」といえば、日本の船が入港したこと

だといいます。



 船に掲げてある日の丸からの連想なのでしょうか。しかし檜洞

丸のような丸は、古代朝鮮語から来ているという。朝鮮では高い

山を「マル」とか、「モイ」と呼んでいたという。韓国の済州島で

は独立峰に「マル」をつけているそうです。ここ丹沢は昔、朝鮮か

ら高度の文化をもった人たちが渡来して開拓、いまでも朝鮮語に由

来する地名が散在しています。



 しかしここ大丸の場合、丸い山容からくる感じがからきているよ

うです。富士山の眺めもバツグンで、大丸の南西には小丸があり、

南には勘七ノ沢が食い込んでいます。この沢は多数の小滝があり、

沢登りの格好の場所で、だれでも一度は挑戦するところです。沢名

は、きこりの名からきたのではないかという人もいます。



 勘七ノ沢は南へ流出して、四十八瀬川(しじゅうはっせがわ)となって、

酒匂川(さかわがわ)に合流しています。四十八瀬川は、ふだんは流れ

の穏やかな清流ですが、集中豪雨などの時には、急流になって流れ去

り、瀬が多くできることから川名がおこったとされています。上流部は大正

13(1924)年の大地震で地表面が大崩壊、岩肌を露出してしまいまし

た。



 大丸・小丸の南ろくにある堀山下集落は、四十八瀬川と水無川にはさ

まれた地域。その名は、南北朝時代の北朝・貞治年間(じょうじ・1362〜

1368)ころに堀山影と書いて「ほりやました」と称したことにちなむという。

ほかに山のつけ根にあたるところにちなんでいるともいわれています。



 またその南・四十八瀬川の右岸にある三廻部(みくるべ)集落も古い地

名。ミクルベとは変わった地名ですが、江戸幕府編纂の地誌『新編相模

国風土記稿』(1842年・天保13年完成)に、「三廻部村 美久留倍牟

良。往古村内に釈迦の霊像あり、即(ち)釈迦牟尼仏(しゃかむに)と書し

て、みくるべと訓する故、村名となれりと云」とあるのがひとつの説。



 そのほか、如来を「ニクルベ」と呼ぶことから、「ニ」が「ミ」に変化したと

する説もあります。これに加えて、祭りの時には神輿(みこし)をかついで

村をまわるのですが、村内の住吉社・観音堂・稲荷社の3ヶ所をまわって

いるうちに、夜が明けてしまったため、「三廻部」といったとか、さらにまた

源頼朝の正室政子が安産祈願のため、この村を訪れ宮参りをしていてい

ましたが、3回まわったところで夜が明けてしまったなどの伝説が残って

います。



 三廻部は頼朝に関係があるのか、村内にその墓があるというのです。

水田地帯の中ほどにある叢林にある石碑がそれ。やはり『新編相模国風

土記稿』には「源頼朝墓、艮(うしとら)方にあり、根府川石を以て碑を建

つ、長二尺四寸、碑面に武皇嘯(しょう)源大居士尊儀、正治元己未年

正月十三日鎌倉頼朝公と彫る、四辺古木繁茂して、物ふりたる地なり」と

あります。



 ところがその文章には、「是は追慕せし者の特に築きし所なるべし」と

つけ加え、おまけに「碑石は最近世建てる物と見ゆ」とあります。あらら。

どうやら後世になって誰かが建てたものらしい。ザンネン。




▼大丸【データ】
【所在地】
・神奈川県秦野市と同県足柄上郡山北町の境。塔ノ岳の南西1キロ。
小田急渋沢駅からバス大倉終点下車、さらに歩いて3時間15で金冷
シ、さらに10分で大丸。標高点(1386m)がある。標高点より西南西に
鍋割山がある。
【位置】
・標高点:北緯35度26分57.8秒、東経139度09分26.88秒
【地図】
・2万5千分の1地形図:「大山(東京)」

▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
・『新編相模國風土記稿1』(大日本地誌大系19)(雄山閣)1980年
(昭和55)
・『日本歴史地名大系14・神奈川県』鈴木棠三ほか(平凡社)1990年
(平成2)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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