山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼427号 「東北・早池峰山清六天狗伝説」

【概略】
「遠野物語拾遺99」にも出てくる早池峰山の天狗清六。酒が好きで
いつもヒョウタンを持っていていくらでも酒が入ったという。遠野
市には、その天狗の着ていた「天狗の衣」がいまでも伝わっている
といて、袖に十六紋の菊が綾織りになっていて、胴にもヒョウタン
の形の中に菊の紋があるという。
・岩手県花巻市と川井村との境

▼427号 「東北・早池峰山清六天狗伝説」

【本文】
東北の名山として早池峰山(岩手県)は、山頂に霊泉といわれる池
があり、これが山名のもとのなってといます。この山の麓には天狗
の話がたくさん残っています。その一つ、村に足の速い男がいまし
た。

村人がそろって早池峰山参りするのときも、いつも人の後から家を
出ます。みんながあえぎあえぎ、やっと山頂に登ってみると、いつ
の間にか先に来ていて「お前たちは何をしていたのだ」と笑ってい
ます。

名前を清六天狗といい、花巻あたりの人で酒が好きで、さび付いた
小銭で酒代を払い、差し出す小さなヒョウタンには酒がいくらでも
入ったという。民俗学者柳田國男の「遠野物語拾遺99」に出てくる
話です。

清六天狗は酒が好きで、いつも小さなヒョウタンに酒をつめて持ち
歩いており、酒がなくなるとさびついた小銭を払って酒を所望する
のですが、ヒョウタンには酒をいくらつぎ込んでもみんな入ってし
まうという。

遠野市には、天狗が着ていた「天狗の衣」が伝わる家があり、それ
は袖の小さい青い襦袢のようなもので袖に十六紋の菊が綾織りにな
っていて、胴にもヒョウタンの形の中に菊の紋があるという。また
天狗の衣のほかに、清六の履いた下駄も大切にしていたという。ま
た清六の末孫という人がいまも岩手県花巻市にあたりに住んでい
て、まわりの人はこれを「天狗の家」と呼んでいたといいます。

さらにその家の娘が遠野の町でいたことがあったそうですが、彼女
は夜中にどんなに厳重に戸締まりしてあっても、どこからか出て行
って町を歩きまわり、時々人のリンゴ園に入り込みリンゴをとって
食べているという。その後一関市の方に住んでいたという話もあり
ます。

ある夏、早池峰山に登り、薬師岳を経由して、遠野側下る途中の小
田越えの避難小屋に泊まりました。小屋は以外と広く快適です。日
がかたむき、誰も居ず静かです。清六は飛ぶようにしてこの付近を
通るのだろうか。運よく一目でも見られればこんないいことはあり
ません。

突然小屋の戸が開きました。こども連れの一家がドヤドヤと入って
きました。それからは賑やかなこと賑やかなこと。深田久弥選定の
「日本百名山」のひとつ。また田中澄江選定「花の百名山」にも入
っています。

▼【データ】
【山名】・早池峰山(はやちねさん)・早池の泉(つねに清水を八分
くらいに湛えていて、甘みがあり、不思議なことに雨が降っても水
があふれず、ひでりになっても涸れないという。ところが汚れた器
で汲んだり、不浄を加えればたちまち水は涸れてしまう。しかしお
経を唱えて祈ればすぐに湧いてくるという。その感応の早さから「早
池峰」の名前がある)

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第14番):日本二百名山、日本三百
名山にも含まれる。
・田中澄江選定「花の百名山」(第27番・チシマコザクラ)
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(含まれず)

【所在地】
・岩手県花巻市大迫町(旧稗貫(ひえぬき)郡大迫(おおはさま)
町)と岩手県下閉伊郡川井村との境。JR花巻駅からバス・川原の
坊から3時間20分で早池峰山。一等三角点(1913.61m)と早池峰
山神社奥宮がある。地形図に山名と三角点の標高と神社の鳥居記号
と避難小屋の記載あり。

【ご利益】
・【早池峰山神社奥宮】:災難除け・豊作祈願・作神

【位置】
・三角点:【緯度経度】北緯39度33分30.08秒、東経141度29分20.45
秒(電子国土ポータルWebシステムから検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「早池峰山(盛岡)」or「高桧山(盛岡)」(2
図葉名と重なる)(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」か
ら検索)。5万分の1地形図「盛岡−早池峰山」(「電子国土ポータ
ルWebシステム」から検索)

【山行】東北の山縦走
・某年8月3日(木・ガスのち晴れ)早池峰山探訪

【参考】
・「定本附馬牛村誌」附馬牛村(岩手県)誌編纂委員会著(附馬牛
村役場)1954年(昭和29)
・「天狗の研究」知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・「図聚天狗列伝・東日本」知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・「遠野物語」柳田国男(角川文庫・角川書店)1979年(昭和54)
・「遠野物語拾遺」:(「遠野物語」柳田国男(角川文庫)1979年(昭
和54):p69に収録

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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