山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼420号 「北ア・立山のクモ男」

・【概略】
山にたきぎ取りに通う嫁さまは、やがて身ごもり奇妙な卵を産んだ。
驚いた両親が卵を割ってみると、何千という小さなクモの子が出て
きた。嫁さまにわけを聞くと「山に入るたびにりっぱな男があらわ
れてたきぎを取ってくれ、それでおら…」。「それは立山に住むクモ
男だ」村中が大騒ぎになった…。

▼420号 「北ア・立山のクモ男」

【本文】
昔、北アルプスの立山のふもとの村に住む若者がかわいい嫁さまを
もらいました。ある日、山へたきぎを取りに行った嫁さまが、青い
顔をして帰ってきました。やがて嫁さまはみごもり子を生みました。

ところが、産まれたのは奇妙な三つの卵でした。「これはエライこ
っちゃ」。腰をぬかさんばかりに驚いたのは若者と両親。その卵を
割ってみると、中から何千という小さなクモの子が出てきました。

まわりの人たちの評判になりました。わけを聞いてみると、嫁さま
は泣きながら話しました。

「ある時、山へ行ったらりっぱな男の人が出てきて、ひとりでたき
ぎ取りを手伝ってくれたんだァ。それからは、山へ行くたんびにそ
の人が出てきて草やたきぎをとってくれて、それで、おら……」。

聞いていた若者はゾッとして「そ、それは立山のクモ男に違いねエ」。
「えッ」嫁さまは声をふるわせました。「恐ろしいことじゃ、恐ろ
しいことじゃ」。

それからというもの、どうしたことか嫁さまが仕事をしようとする
と、目の前にクモの糸がびっしり張るようになりました。「クモの
糸が、クモの糸が…」しかし他の人には見えません。

夫の若者も「夢でも見ているのけ」と取り合ってくれません。嫁さ
まはいつも目の前がクモの巣だらけで、仕事もままならず。クモ男
にとりつかれた嫁さまは、それがもとで病気になり、とうとう死ん
でしまったということです。立山に昔から伝わる伝説です。

▼【データ】
【地名】室堂平バスターミナル。室堂は立山の信仰登山のため、16
95年(元禄8)に金沢藩の参籠所としてつくられた。のち享保年間
(1716〜36)に山小屋になった。わが国で最も古い山小屋。

【所在地】
・富山県中新川郡立山町町。富山地方鉄道立山線立山駅の東14キロ。
富山地方鉄道立山駅からケーブル、美女平駅からバス、立山室堂平。
電子基準点(標高2441.24m)と電子基準点(付)(標高2432.55m)
ある。地形図に室堂平、室堂ターミナル、自然保護センター、郵便
局記号、病院建物記号、交番建物記号、官公署建物記号、電子基準
点記号とその標高(2432.6m)の記載あり

【位置】
・電子基準点:【緯度経度】北緯36度34分37.17秒、東経137度35分4
5.47秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「立山(高山)」(国土地理院「地図閲覧サ
ービス」から検索)。5万分の1地形図「高山−立山」(「電子国土
ポータルWebシステム」から検索)

【山行】早月尾根・剱岳・五色ヶ原・薬師岳縦走
・某年7月29日(月・快晴)立山室堂探訪

【参考】
・「日本の民話7・妖怪と人間」宮本常一ほか監修・松谷みよ子ほ
か編(角川書店)1973年(昭和48)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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