山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼396号 「南ア・仙丈岳は甲斐駒ヶ岳の前山」

【概略】
♪東や仙丈、西や駒ヶ岳(木曽駒ヶ岳)、間を流れる天竜川…と伊
那節にも歌われる仙丈ヶ岳。長野県側では仙丈ヶ岳を前岳と呼んだ
といいます。大きく見える仙丈ヶ岳も信仰の山としてにぎわう甲斐
駒ヶ岳に対してはただの前山(前岳)に過ぎなかったということで
す。
・長野県伊那市長谷(旧上伊那郡長谷村)と山梨県南アルプス市芦
安(旧山梨県中巨摩郡芦安村)との境。

▼396号 「南ア・仙丈岳は甲斐駒ヶ岳の前山」

【本文】
♪東ゃ仙丈(せんじょう) 西ゃ駒ヶ岳 間を流れる天竜川…と長
野県の伊那節にあります。仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ・3033m)
は南アルプス3千m級では最も北に位置している山です。

山頂からは北へ馬の背の尾根、南へ仙塩尾根(せんしおおね)、東
へ小千丈尾根、西へ地蔵尾根と4つの大きな尾根がほぼ東西南北に
延びています。稜線への傾斜地はシーズンは見事なお花畑になり、
センジョウアザミ・センジョウナズナ・センジョウチドリなどのこ
こだけにしかない固有種も多くあります。そのほか、シナノキンバ
イ、ハクサンイチゲ、ウサギギク、イワギキョウなどが咲き乱れて
います。

仙丈ヶ岳は南アルプスの中でも数少ないカールのある山。女性的な
山の形から南アルプスの女王ともいわれているそうです。山頂直下
には薮沢(西側長野県側・千丈岳カールとも)・大仙丈・小仙丈(東
側山梨県側)の3つのカールがあります。なかでも藪沢のカールは
北アルプス穂高岳の涸沢カール、同じく立山の山崎カールとともに
わが国の三大カールといわれているそうです。

昔は千丈岳ともいい、山の高さが千丈(約3千m)もあるからとも、
西麓の長野県伊那谷から仰ぐと薮沢カールが広々としていて千畳敷
ともいわれていたからといいます。仙丈ヶ岳は伊那側では前山(前
岳)と呼んでいたという。

江戸時代中期の元禄年間(1688〜1704)のことを書いた、その名も
「元禄時代ノ伊那ノ図」(大正10(1921)年刊の「上伊那郡史」所
載)には、上伊那郡(長野県)と、甲斐(山梨県)境に前岳の記載
があります。

下って文化14年(1817)の絵図にも、まわりの山々の「鋸岳」「白
崩山」「駒ヶ岳」などの名前とともに「前岳、又地蔵岳トモイフ」
と書かれています(木師御林山絵図)。大きな仙丈ヶ岳も伊那側か
らみれば、信仰の対象である甲斐駒ヶ岳とくらべて、その前山でし
かなかったということでしょうか。

そんな軽い伊那地方の呼び名の山も、甲斐国側では仙丈ヶ岳と呼び、
明治中頃より伊那地方でも一般の人も仙丈ヶ岳と呼ぶようになった
のだそうです。測量登山は明治35年(1902)の山本米三郎だという。
山頂からは中央アルプス全山から遠く北アルプス、それに甲斐駒ヶ
岳から鳳凰三山、白根三山、塩見岳から南につづく南アルプスの山
々が一望できます。

▼【データ】
【山名】せんじょうがだけ。前岳ともいう。

【所在地】
・長野県伊那市長谷(旧上伊那郡長谷村)と山梨県南アルプス市芦
安(旧山梨県中巨摩郡芦安村)との境。JR飯田線伊那北駅から戸
台、さらに歩いて8時間で仙丈ヶ岳。(標高3032.6m)。二等三角点、
方位盤がある。地形図に山名と三角点の標高の記載あり。

【位置】
・三角点:(標高3032.6m、二等三角点)。【緯度経度】:北緯35度43
分12.31秒、東経138度11分00.88秒(電子国土ポータルWebシステム
から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「仙丈ヶ岳(甲府)」(国土地理院「地図閲
覧サービス」から検索)。5万分の1地形図「甲府−市野瀬」

【山行】南ア・仙丈ヶ岳・三峰岳・蝙蝠岳・塩見岳・三伏峠縦走
・某年8月15日仙丈ヶ岳探訪

【参考文献】
・『信州山岳百科・2』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『角川日本地名大辞典20・長野県』市川健夫ほか編(角川書店)1
990年(平成2)
・『角川日本地名大辞典19・山梨県』磯貝正義ほか編(角川書店)1
984年(昭和59)
・『日本歴史地名大系20・長野県の地名』(平凡社)1979年(昭和54)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
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