山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼391号「北ア・剱岳早月尾根伝蔵小屋」

【概略】
剱岳から北西に連なる長い早月尾根があります。もう随分昔のある
夏、むせ返るような草いきれ、邪魔をする木の根。途中の小屋で一
泊。テント場の土が乾いていて気持ちがいい。朝、目を覚まし外を
のぞいて声を上げました。劔岳から小窓へ続く稜線の見事さ。深い
谷の向こうに鋸の歯のような岩の連続。しばらく見とれてしまいま
した。

▼391号「北ア・剱岳早月尾根伝蔵小屋」

【本文】
北アルプス剱岳の山頂から北西に連なる長い早月尾根。富山県上市
町の登山口馬場島から展望のない尾根がエンエンと伸びています。
その昔測量のため剱岳に登った役人一行が山頂で修行者が持つ錫杖
の頭を見つけました。

鑑定の結果、平安時代のものだという。自分たちがはじめての登山
者だと思っていたのに大ショック。馬場島の山小屋では、その時の
記念の錫杖の頭を土産物として売っています。

早月尾根はむせ返るような草いきれ、その上木の根が足の動きを邪
魔します。ここを登るには途中の小屋で一泊しなければならず登山
者は少ない。

7月の梅雨明け。早月尾根で出会った人は4、5人のみでした。そ
の中でもほかの人は食事つきの小屋泊まりでザックも小さく身軽で
す。テント泊の縦走姿はいませんでした。

その日は当時の伝蔵小屋(いまは早月小屋)前のテント場泊まりの
予定です。テント場は土が乾いていて気持ちがいい。夕陽が日本海
に傾いています。次第に暮れなずみいつ眠りはいったか分からない
ようにぐっすりねられました。

翌朝、目を覚まして外をのぞいて思わず声を上げます。剱岳から小
窓へ続く稜線の見事さはどうだ!深い谷の向こうに鋸の歯のような
岩の連続。三ノ窓はどこだ。小窓はあのあたりか。しばらく見とれ
てしまいした。その光景がいまもまぶたに焼きついたままです。

それにしてもいまは上市町駅から馬場島までのバスがなくなってし
まったという。公共機関までが採算、採算で動く時代。資本主義の
世の中とはいえ、残念なことです。

▼早月小屋【データ】
【所在地】
・富山県中新川郡上市町。富山地方鉄道上市駅からバス(いまは廃線の
ためタクシー)、馬場島下車で早月尾根登山口、さらに歩いて4時間30分
で早月小屋。地形図に小屋名のみ記載。標高なし。

【位置】
・早月小屋:北緯36度37分52.25秒、東経137度35分51.54秒

【地図】
・旧2万5千分の1地形図「剱岳(高山)」

【山行】
某年7月27日(土・快晴)伝蔵小屋いまは早月小屋探訪

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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