とよだ 時 「山の伝承伝説」民俗画
山旅イラスト通信【ひとり画展】

▼380号「道志・岩道峠(巌道峠)の伝説」

【概略】
赤鞍岳、朝日山の登山口の岩(厳)道峠。江戸時代の地誌『甲斐国
志』はここを強盗(がんどう)坂と書いている。明治28,9年、
道志村川原畑集落の甲斐絹行商人が、ここで何者かに襲われ「強盗
峠」として有名になったことがあるという。
・山梨県道志村と秋山村との境

▼380号「道志・岩道峠(巌道峠)の伝説」

【本文】
山梨県道志地方に連なる山々・赤鞍岳、朝日山の登山口に巌道峠(岩
道峠)という峠があります。またの名を天神峠ともいい、山梨県道
志村久保と秋山村安寺沢・神野を結びます。

かつては久保の商人が村で生産された炭や生糸を上野原まで運ぶに
は大変な苦労で、朝暗いうちに家を出て巖道峠を越山の反対側の秋
山村へ出て、桂川を渡り上野原に向かったといいます。

そんな峠ですから、大昔は山賊か強盗が出るようなところであった
らしい。江戸時代の甲斐の国の地誌、『甲斐国志』(巻之三十六 山
川部第十六中)に、ここを「強盗(がんだう)坂」と書き「秋山村
ヨリ道志村ノ久保ニ越ユル坂道ナリ」とあります。

また「富岡ヨリ南アテラ沢マデ三十町、アテラ沢より久保マデ一里
余」とあります。強盗坂とは聞き捨てなりません。実際に明治の28、
9年ころ、道志村川原畑に住む市蔵という甲斐絹の行商人が、上野
原へ絹糸を売りに行く途中、峠の二曲がりと呼ばれる所の直下で、
何者かに惨殺され、クリの木の下に自殺を装って吊されました。

そんなことから一時は「強盗峠」として、世間に紹介されたことが
あるそうです。大正7(1918)年ころになり「強盗峠という名が後
世に残るのはここの不名誉」と、道志村久保学校の小沢伝吉という
先生が、「巖道峠」の名を呼びかけいまではすっかり定着していま
す。

一説に岩(厳)道峠の名は、ゴロゴロとした岩石が多いところを「岩
道場」というところからきたとされています。「ガン」は甲州郡内
では岩石地のことで、岩場をガンバとかガンバラというらしい。甲
斐駒ヶ岳の雁河原もガンガアラの訛で、そこから出る沢をガンガの
沢。花崗岩の露出した石地だというのです(『山ことば辞典』岩科
小一郎)。

さらに道志の古老にも「ガンドウバ」というと教えられたと『あし
なか第1冊』「第6号」で坂本光雄も述べています。道志村の古図
にも岩堂場(ガンドウバ)峠と記されているそうですから間違いな
さそうですね。前述の甲斐絹の行商人惨殺の件は『甲斐國志』の「強
盗坂」にこじつけた説話らしいといわれます。

しかしこんな峠ですから不思議な言いつたえはついて回ります。こ
の峠は道志側は、秋山側のゆるい斜面に対し、岩石まじりの急坂が
続きます。山道がやっと頂上に近づくころ、峠と見間違うところが
ありました。

村人はここを「ソラッ峠」と呼んでいました「ソラッ峠」は空ッ峠
で、峠とだまされる場所という意味です。ある年1人のいまでいう
ホームレスの人が、「ソラッ峠」で餓死しました。

村人たちは亡きがらをここに埋葬しました。それからというものこ
の峠にさしかかると、不思議にお腹がすいて、1歩も歩けなくなっ
てしまいます。旅人は恐ろしさに手荷物を投げ捨てて逃げ帰ったと
いう。

ここは一名天神峠とも呼ぶように、峠の上のブナの大木の根元に天
神社の小祠が鎮座しています。この地方では集落の境界や、峠に天
神社がたくさんあり、道志の山々にも天神峠という名が10数ヶ所
もあるそうです。

菅原道真の霊魂で、村に邪神による疫病などを入らせないようにし
ているのではないかとされています。地元では単に天神峠(久保天
神峠)と呼ばれるのが一般的であったようです。

▼巌道峠(岩道峠)【データ】
【所在地】
・山梨県南都留郡道志村と山梨県上野原市(旧南都留郡秋山村)と
の境。JR中央本線藤野駅からタクシー40分で巌道峠(岩道峠)。
地形図に地名と石碑マークのみ記載。標高の記載なし。付近に何も
記載なし。(標高790m)

【位置】
・【巌道峠】緯度経度:北緯35度32分44.88秒、東経139度05分15.3
秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「大室山(東京)」

【山行】
・1997年(平成9)4月12日(土・晴れ)巌道峠(岩道峠)探訪:
「高尾駅・上野原駅・鳥居立山・巌道峠・久保・藤野駅・八王子駅」

【参考】
・『あしなか第1冊』「第6号」(山村民俗の会)1943年(昭和18)
・「甲斐国志」(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大日
本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)
・『角川日本地名大辞典19・山梨』(角川書店)1991年(平成3)
・「道志七里」伊藤堅吉(山梨県道志村役場)1953年(昭和28)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『山ことば辞典』岩科小一郎(百水社)1993年(平成5)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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山旅イラスト【ひとり画信】
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