山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼363号「奥多摩・鋸尾根の天狗像」

【前文】
鋸尾根でひょこっと現れる大天狗と小天狗の石像。思わずザックを
下ろし小休止、お茶を飲みおやつをほおばる。誰でも思いは同じな
のかあとから来るハイカーも次々に休憩。たちまち不安定な岩場は
満員になってしまった。
・東京都奥多摩町と檜原村との境

▼363号「奥多摩・鋸尾根の天狗像」

【本文】
奥多摩の大岳山は、御前山・三頭山とあわせて奥多摩三山と呼ば
れます。この山は神主がかぶる冠のような形なので一名冠山と呼
ぶそうです。目立つその峰は東京都心からでも望めます。

「武蔵通誌」という本に「両総地方(千葉県)ニテ武蔵ノ鍋冠山
ト称シ、海路ノ目標トナス」とあり、かつては東京湾の漁船の目
じるし(あて)になっていたといいます。

その大岳山から露岩の間の急坂を下り、奥多摩駅方面に進みます。
やがて鋸のようにギザギザなその名も鋸山、天地山分岐からゴツ
ゴツした鋸尾根を進み、ハシゴや鎖場を過ぎてひょこっと現れる
大天狗と小天狗の石像。そばに神社の石祠もあります。

大天狗像の下部には「奉」の文字、小天狗像の下部には「納」の
文字があり、それぞれに「昭和四六年五月」、左側に神社の名前も
刻んであります。

思わずザックを下ろし小休止、お茶を飲みおやつをほおばります。
誰でも同じなのかあとから来るハイカーも次々に休憩。たちまち
満員の状態でした。

ところでどうしても気になるのがこの天狗の神社です。ここはそ
の神社の奥宮で、里宮は奥多摩町氷川の登計(とけ)集落にあると
いう。天狗の神社として30年来気になっていたところ。

そこである初秋、物好きにも訪ねてみました。奥多摩駅前の観光案
内所やビジターセンターで神社の名前をいってもよく分かりませ
ん。さすが天狗の神社とあって神秘的なところがいい。ますます期
待できそうです。

消防署前から舗装の坂道を登っていくのですがそれから先はムニャ
ムニャ。とうとう愛宕山から鋸尾根につづく登計峠に出てしまいま
した。引き返し、誰かに聞こうにも、民家はあっても人っ子ひとり
いません。

坂の林道を行ったり来たりを数回。民家からテレビの音が聞こえて
くる家があります。庭先から声をかけ、やっと神社の場所を聞き出
し訪れることが出来ました。

神社に人は留守で、狛犬の変わりに大天狗小天狗が鎮座まします。
写真を撮り、神社の回り一巡し、まあまあ満足です。早速奥多摩町
役場へこの神社の由来、祭神など聞きに行きました。

と、あの神社は地元の人たちが氏子になって出来た神社ではなく、
新しい宗教法人なので、町では把握していないとのこと。えっ。新
興宗教団体なのか。

そういえば神社に立派な鳥居と寄進者の名前を書いた木札があった
けれど、由来を書いた石碑がなかったぞ。それじゃ、作品に取り上
げて発表すれば特定の宗教団体の宣伝になってしまいます。

なんという…。残念ながらこんなわけで暑い初秋の一日がかりの「天
狗神社訪問記」もチョン。こんなこともありますわいな。

▼鋸尾根【データ】
【所在地】
・東京都西多摩郡奥多摩町と東京都西多摩郡檜原村との境。JR
青梅線奥多摩駅から歩いて1時間20分で鋸尾根天狗像。神社の祠
と大天狗小天狗の像がある。そのほか付近に何もなし。地形図上
に何も記載なし。

【位置】
・【天狗像】緯度経度:北緯35度47分49秒、東経139度05分54
秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「奥多摩湖(東京)」

【山行】
・某年3月29日(木・晴れ)奥多摩鋸山探訪

【参考】
・「角川日本地名大辞典13・東京都」北原進(角川書店)1978年(昭
和53年)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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