山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼339号「新潟県・苗場山の苗の田んぼ」

【概略】
田んぼに苗を植えたように、湿地植物が生えている苗場山の山頂。
そんな稲田がたくさんならんでいるよう。苗場山とはよくいったも
の。秋には穂をつけ、蛙やイナゴまで出るといい「常の田にかはる
事なし」と鈴木牧之が「北越雪譜」に書いている。・新潟県津南町
と湯沢町と長野県栄村との境。

▼339号「新潟県・苗場山の苗の田んぼ」

長野と新潟県境にまたがる苗場山(2145m)山頂にひろがる約4平
方kmの平原。苗場山はその名のように、苗が植わった稲田のよう
な小さな池が、高山植物の花が咲き乱れる湿原いっぱいに散在して
います。苗場山とはよくいったものです。

江戸後期の越後の文人・鈴木牧之(ぼくし)も「是(この)絶頂
は周(めぐり)一里といふ。莽々(まうまう)たる平蕪(へいぶ)
高低(たかひく)の所を不見(みず)、山の名によぶ苗場(なへば)
といふ所こゝかしこにあり。

そのさま人のつくりたる田の如き中に、人の植(うえ)たるやうに
苗に似たる草生(お)ひたり、苗代(なはしろ)を半(なかば)と
りのこしたるやうなる所もあり。

これを奇なりとおもふに、此田の中に蛙(かへる)蝗螽(いなご)
もありて常の田にかはる事なし、又いかなる日てりにも田水(でん
すゐ)枯(かれ)ずとぞ」(「北越雪譜」)と述べています。

この山も古くから信仰の山だそうで、かつて水垢離をとった祓川な
どの行場名や石碑があちこちに見られます。山頂のその様子から山
麓の村人は神がここに天降り、田植えをしているとして、山に作物
の守護神「伊米神社」(いめじんじゃ)を祭ってあります。

里宮は湯沢町三俣の苗場山伊米神社。祭神は、死んだ自分の体から
穀物が生えたという神話から食物の神とされている保食神(うけも
ちのかみ)(『日本書紀』)とのこと。話はよく出来ています。

ある年の6月、湿田にはまだ雪が残っています。その日は山頂ヒュ
ッテ前にテントを張りました。山小屋前の「苗場」はまだ雪の下の
部分が多い。

秘境といわれれた秋山郷方面へ木道が続いています。木道の上を途
中まで下ってなにか石仏のようなものはないかと探してみます。木
道はぐんぐんと下りますがなにも変わったものはないようです。

散策とはいえ雪にまみれながら登り返すのに骨がおれます。息を弾
ませながらの一歩、一歩。秋にまた来て、「此田の中に蛙蝗螽もあ
りて常の田にかはる事なし」と書かせた、この下に広がる「田んぼ」
に実る穂や、カエルやイナゴの姿を見たいものだと思ったことでし
た。

▼【データ】
【山名】苗場山(なえばさん)。稲田のような小さな池。なえ(い)
場山。別称:幕山(元禄御国絵図)。

【名山】
・(第32番)日本百名山(深田久弥選定・日本二百名山、日本三百
名山にも含まれる)。・(ナシ)新日本百名山(岩崎元郎選定)。・(第
63番ツルコケモモ)花の百名山(田中澄江選定)

【所在地】
・新潟県中魚沼郡津南町(つなんまち)同県南魚沼郡湯沢町と長野県下
水内郡(しもみのちぐん)栄村との境。上越線越後湯沢駅の西15キロ。上
越新幹線越後湯沢駅からタクシー第2リフト町営駐車場下車、歩いて3時
間40分で苗場山。山頂に一等三角点(2145.3m)と伊米神社、苗場山頂
ヒュッテ、遊仙閣がある。地形図に山名と三角点の標高、自然体験交
流センターと遊仙閣の文字の記載あり。

【ご利益】
・【伊米神社(いめじんじゃ)奥の院】:国家安全・五穀成就

【位置】
・三角点:北緯36度50分45.32秒、東経138度41分25.15秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「苗場山(高田)」(別の図葉名と重ならず)(電
子国土ポータルWebシステムから検索)。5万分の1地形図「高田
−苗場山」

【山行】苗場山山行
・某年6月24日(土・くもり)苗場山探訪

【参考】
・『角川日本地名大辞典15・新潟県』田中圭一ほか篇(角川書店)1
989年(平成1)
・『山岳宗教史研究叢書・17』(修験道史料集1・東日本編)五来重
編(名著出版)1983年(昭和58)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『日本歴史地名大系15・新潟の地名』(平凡社)1986年(昭和61)
・『北越雪譜』鈴木牧之:(ワイド版岩波文庫82)岡田武松校訂(岩
波書店発行)1991年(平成3)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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