山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼319号 「奥多摩・小河内峠のフクロウ夫婦」

雪の月夜見山から車道を横切り、御前山へ向かう途中、小河内峠で
ビバーク。ここはかつて奥多摩町小河内地区と檜原村とつなぐ峠だ
った。ゆったり広めの峠道は落ち葉がじゅうたんになり気持ちがい
い。仲のよいフクロウ夫婦の鳴き声がいつまでも聞こえていた。
・東京都奥多摩町と檜原村との境

▼319号 「奥多摩・小河内峠のフクロウ夫婦」

【本文】
東京都の奥座敷奥多摩。月夜見山と御前山の中間にある小河内峠(河
内峠)は、奥多摩町小河内地区と檜原村とつなぐ峠。小河内地区は
1957(昭和32)年奥多摩湖の出現で945世帯が移転。その跡地は奥
多摩湖の底に水没しました。

この峠はかつて奥多摩町と檜原村との物資や文化交流のただ一つの
通行路だったといいます。1992年、ある社会人山岳会の70周年記念
出版「東京の山100山50コース」(山と渓谷社)というガイドブック
のとりまとめを担当。

同年4月、現地再調査に訪れました。JR武蔵五日市駅から入り三
頭山に近づくころはどしゃ降りの雨。仕方なく三頭山避難小屋に1
泊。翌日三頭山の東峰、中央峰、西峰の呼び方の乱れを地図上で整
理します。

また東峰の三頭御前の祠の再調査などですっかり時間をとられ、雪
の月夜見山から車道を横切り、御前山へ向かいました。が、途中の
小河内峠で暗くなってしまいビバーク。ゆったり広めの峠道は落ち
葉がじゅうたんになり気持ちがいい。

夕食もすませ、ラジオを聞きながら寝袋に潜り込みます。そのうち
そばの木でフクロウが鳴きました。フクロウが木の枝で鳴いている
のです。ゴロッ、ゴロッ、ボーコといううす気味悪い鳴き声です。

昔の人は、これを「ぼろ着て奉公」とか「糊つけて干ーせ」などと
聞きなししました。絵本などにも、夜の場面になると必ずフクロウ
が描かれています。丸い平べったい顔、時々片目をつむったりして、
ジッと見つめる2つの目。

首が短いくせに顔をうしろに回したり、上下を逆さにしたりの芸当
ができます。この愛嬌のあるフクロウは昔から人々に親しまれてき
たようです。すると少しは離れたところから別のフクロウが答えま
す。どうやら仲のよいフクロウ夫婦のようです。

フクロウは夜行性。夜でも目が見え、少しの音でも聞き逃さないの
だそうです。獲物を見つけると、羽音をたてないやわらかい羽で飛
びたちます。そして前向き2本、後ろ向き2本の指でがっしりと捕
まえて食べます。

獲物はネズミ、モグラ、兎、小鳥などだそうです。夜が更けた静か
な山の中、テントのそばで2羽のフクロウの呼び交わしがいつまで
も聞こえてきました。

▼【データ】
【所在地】
・東京都奥多摩町と檜原村との境。JR五日市駅からバス藤倉終点
下車、歩いて2時間で小河内峠。付近に何もなし。地形図上には峠
名のみ記載。峠より西南方向直線約94mに写真測量による標高点
(1050m)がある。

【位置】
・【小河内峠】緯度経度:北緯35度45分51.99秒、東経139度03
分42.55秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検
索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「奥多摩湖(東京)」

【山行】
・某年2月29日(土・くもり)探訪

【参考】
・「角川日本地名大辞典13・東京都」北原進(角川書店)1978年(昭
和53年)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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