とよだ 時 「山の伝承伝説」民俗画
山旅イラスト通信【ひとり画展】

▼306号「北ア・常念岳の常念坊伝説」

【概略】
平安時代、八面大王魏石鬼の手下の常念坊がまゆみ岳に逃げ込んだ。
それからはふもとの酒屋に怪しい僧がやってきては5合の徳利に5
升くれという。つぐと不思議に入ってしまう。「あれは常念坊に違
いない」、人々はまゆみ岳を常念岳と呼ぶようになったという。
・長野県松本市と安曇野市との境

▼306号 「北ア・常念岳の常念坊伝説」

【本文】
北アルプスの常念岳には春、常念坊という呼ばれる雪形が出て、ふ
もとの安曇野の人たちに親しまれ、常念坊伝説までつくられ、また
農作業の目安にもされています。

雪形は、前常念の東面に黒くあらわれ、左向きの姿で、よく見ると
手に托鉢用の鉢を持っています。4月初旬から下旬にかけて前常念
岳の東側に雪形となってあらわれ、ふもとの安曇野市(豊科、穂高)
付近で見られます。

この山はもともとは「まゆみ岳」と呼ばれていたという。平安時代、
坂上田村麻呂が常念岳北方にある有明山の岩屋に住む魏石鬼八面大
王を退治したという。

その時大王の手下の鬼・常念坊が空を飛び、まゆみ岳に逃げ込みそ
のまますみつきました。この鬼はなぜか念仏をよく唱えていたそう
です。

それからというもの、年の暮れにふもとの村に市が立つときまって
酒屋に怪しい僧侶がやってきて、5合の徳利を出しては5升くれと
いう。酒屋の親父が頭をひねりながらもついでみると不思議に5升
の酒が入ってしまう。

それを村人が聞いて、「あの坊さんはまゆみ岳の常念坊に違いない」
と話し合い、いつかまゆみ岳のことを常念岳と呼ぶようになったの
だそうです。

また密猟者がこの山の谷で野営をしていると、頂上から勤行の経と
鐘の音が夜通し聞こえ、良心の呵責にあい一晩中眠れず、2度とこ
の山に近づかなかったという話もあります。

そのほか、同じ長野県安曇野市穂高(旧南安曇郡穂高町)牧にある
栗尾山満願寺のお坊さんの常念坊が初めて登った山なので常念岳に
なったという説。

あるいは長野県安曇野市堀金(旧南安曇郡堀金村)では田尻の正福
院(明治維新に廃寺)というお寺の常念坊という山伏が登るように
なったのが山名のもとだともいわれているようです。

常念坊は春、4月初旬から下旬にかけて前常念岳の東側に雪形とな
ってあらわれます。この常念坊の雪形が消えると白色(ポジ形)の
万能鍬の雪形が南沢の浸食岩壁にあらわれるという。

この一帯はタカネヒカゲ・ミヤマモンキチョウ・クモマベニヒカゲ
など、本州の高山蝶9種の全部を確認できたそうです。

ある8月、常念岳から三ツ股に下山。ゲート手前の駐車場にはこれ
から登る登山者数人。クルマがズラーッとならんでいます。ゲート
を通りながらきょうは林道途中のキャンプ場に泊まり、明日に満願
寺へ寄ってみよう。

キャンプ場の向かい側には木彫りの工房があり、ならべられたいろ
いろな像の中にひときわ大きい常念坊がありました。満願寺の住職
にお会いするのが楽しみです。翌日、結構な距離をてくてく。ギン
ギラリンの太陽が容赦なく照りつけます。

たどり着いた満願寺で住職にお聞きしました。「常念坊?春に出る
アレだろ。この寺の常念坊?さあ、聞いたことがないナ」エッ。う
ーむ。知らないといわれればとりつくしまがありません。

たしかに複数の本に載っているんだがな?仕方なく庭木をほめなが
らお世辞をいって退散しました。

ちなみに「常念が峰だけ出て雲が帯のようにひくと雨になる」「常
念に朝日が当たるとその日は晴れ」などの言い伝えがあります。

それにしても地方の道路には見たるのはクルマだけで人の姿があり
ません。外を歩く人はいないのでしょうか。炎天下のせいだけでは
なさそうです。
・長野県松本市と安曇野市との境・長野県松本市と安曇野市との境

▼【データ】
【所在地】
・【常念岳・ヒエ平から】・長野県松本市安曇と長野県安曇野市堀金
との境。大糸線豊科駅の北西16キロ。JR大糸線穂高駅からタクシ
ーでヒエ平下車、歩いて4時間半で常念岳。

・写真測量による標高点(2857m・標石はない)がある。常念坊の
祠がある。地形図に山名と標高点の標高の記載あり。標高点より北
方向882mに常念乗越・常念小屋がある。

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第56番):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(含まれず)

【位置】
・【標高点】緯度経度:北緯36度19分31.86秒,東経137度43分39.37
秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「穂高岳(高山)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)

【山行】北アルプス裏銀座烏帽子岳から表銀座・常念岳・徳本峠・
島々谷縦走
・第8日目:1995年(平成7)8月25日(金・快晴)常念岳探訪:
1995年(平成7)8月17日(木)〜8月28日(月)「新宿駅・松本駅・
大糸線信濃大町駅・七倉・烏帽子岳・野口五郎岳・水晶岳・雲ノ平
・高天原(高天ヶ原)・黒部源流・三俣蓮華岳・双六岳・槍ヶ岳・
大天井岳・常念岳・蝶ヶ岳・大滝山・徳本峠・霞沢岳往復・島々集
落・新島々駅・松本駅・新宿駅」:単独行

【参考】
・「角川日本地名大辞典20・長野県」市川健夫ほか編(角川書店)1
990年(平成2)
・「信州山岳百科・1」(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・「日本歴史地名大系20・長野県の地名」(平凡社)1979年(昭和54)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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山旅イラスト【ひとり画通信】
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