山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼293号 「北ア・水晶岳の水晶」

【概略】
水晶岳は水晶がとれるためについた山名。水晶は、六角結晶体をな
すところから六方石山とも呼ばれる水晶岳。『日本百名山』(深田久
弥)に選ばれているため訪れる人は多いが、たいがいは三角点のあ
る北峰へは行かず、南峰だけで帰ってしまうのが気の毒だ。
・富山県富山県富山市

▼293号 「北ア・水晶岳の水晶」

【本文】
北アルプス・黒四ダムで有名な黒部川の源流にそびえる水晶岳(2
978m・富山県)という山があります。ここから赤牛岳を経て奥黒
部ヒュッテに下る読売新道の下山道にあり、水晶がとれるために
この名がついたという。

「この辺は履(ふ)みくづす砂利の中から、石榴(ざくろ)石と
水晶が多量に表れる、結晶は一般に小さく、形の明瞭なものは二
十四面体が多く、菱形十二面体のものはやや大きいけれど不完全
である」。

明治42年(1909)水晶岳に登った、明治中後期の日本山岳会のパ
イオニアの一人辻村伊助は「飛騨山脈の縦走」(第四日紀行)の中
で書いています。

水晶岳はまた黒岳の異名もあります。これは黒々とした山肌の色
からの名前で、信州側の人たちがつけたのではないかという。こ
の山はそのほか六方石山・中嶽・中嶽剣の名もあるという。

六方石は六角水晶体の水晶の別名です。江戸時代の元禄13(1700)
年の「奥山御境目見通絵図」や、享和3(1803)年の「奥山御境目
見通山成川成絵図」には中嶽(なかだけ)の名前で記載されている
そうです。水晶岳の東側を流れる東沢谷も「中嶽谷」の名で記載。

さらに天保10(1839)年の古地図には中岳剣(なかだけつるぎ)
とか中剣岳(なかつるぎだけ)と記載されています。立山の剱岳の
ように険阻な山の意であろう(『「日本歴史地名大系16・富山県の
地名」』)という。中嶽とは立山・後立山両山脈の中間にそびえ立つ
山塊の意味(『富山県山名録』)らしい。

水晶岳(黒岳)のすぐ南に赤褐色の赤岳、西北には灰白色の薬師
岳がありこのあたりの山は色とりどりですね。水晶岳は、いまで
も頂の岩くずの中から水晶がとれ、拾ってきた人も多い。

この山は双耳峰になっていて、三角点は北峰にあります。『日本百
名山』(深田久弥)に選ばれているため、訪れる人は多いですが、
たいがいは三角点には気もとめず南峰だけに登って帰ってしまう
のが気の毒です。

またここから奥黒部方面に「読売新道」という登山道があります。
これは、富山県大門町(現在射水市)出身の正力松太郎が、読売
新聞社の社主になったのをきっかけに、郷里である富山県の高岡市
に読売新聞社北陸支社を開設。それを記念し立山大集会(登山教室)
など、山に関係した記念事業を行いました。

その一つが水晶岳から奥黒部への登山道「読売新道」の開設。1961
年(昭和36)のことだったという。2001年(平成13)にコースが
整備されてからは登山者が急増したそうですが、このコースは長く
エスケープルートもないため注意するよう呼びかけられています。

蛇足ながら水晶岳近くにある水晶小屋、さらに三俣山荘、雲ノ平
山荘のスタンプに私のデザインしたものがあります。丸い大きな
スタンプですので、よかったら記念に押してください。

▼水晶岳【データ】
・【山名・地名】
・水晶岳(すいしょうだけ)
・【異名、由来】:水晶岳。黒岳。南峰(標高点)と北峰(三角点)
がある。

・【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第69番):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。

・【所在地】
・富山県富山市旧大山町各地区名(旧上新川郡大山町)。大糸線信
濃大町の南西24キロ。JR大糸線信濃大町駅からタクシー、高瀬
ダムから歩いて延べ11時間半で水晶岳南峰、さらに5分で北峰。

・南峰には写真測量による標高点(2986m)があり、北峰には三
等三角点(2977.7m)がある。南峰(標高点)の方が北峰(三角点)
より高い。南峰から北91mに北峰がある。地形図に山名水晶岳(黒
岳)の文字の記載あり。

・【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【南峰の標高点】北緯36度25分34.84秒、東経137度36分09.93

・【北峰の三等三角点】北緯36度25分37.58秒、東経137度36分8.88


・【地図】
・2万5千分の1地形図「薬師岳(高山)」。5万分の1地形図「高
山−槍ヶ岳」

・【山行】北アルプス笠ヶ岳〜黒部源流縦走
・某年8月12日(金・快晴)探訪

・【参考】
・「富山県山名録」橋本廣ほか(桂書房)2001年(平成13)
・「日本歴史地名大系16・富山県の地名」(平凡社)1994年(平成
6)
・「飛騨山脈の縦走」辻村伊助(「日本山岳風土記・1」(宝文館)
1960年(昭和35)所収)

【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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